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さそり座の隣には、こぢんまりとした南十字星が、天の川から浮かび上がるように輝いている。
南の小島にいるのだという実感が、じわりとこみあげてくる。
小島のしげみの奥から、影の一滴が無限の闇をひろげて、夜がはじまる。
大小の珊瑚礁は、波といっしょにくずれる。しゃらしゃらと、たよりない音をたてゝ鳴る南方十字星が、こわれおちそうになって、燦めいている。海と、陸とで、生命がうちあったり、こわれたり、心を痛めたり、愛撫したり、合図をしたり、減ったり、ふえたり、又、始まったり、終わったりしている。
金子光晴
『マレー蘭印紀行』
中公文庫 |
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