まどろみから覚めると、心地よい風が顔をやさしくなでるのを感じた。
空気を切るかすかな音が聞こえてくる。

ゆっくり目を開ける。

天井で、ファンがぐるぐると回っていた。
その回転を見つめているうちに、目のフォーカスが定まり、意識が次第にクリアになる。
今、自分はルアンパバーンにいるのだ。

ついさきほどこの部屋で旅装を解いたばかりのはずだ。さあ散策だと宿を出ようとしたとたん、スコールが降り出したのだった。出鼻をくじかれて渋面になったが、まあいいや、どうせ通り雨だろうし、ルアンパバーンではゆるゆると過ごそうと決めていたのだからと、ベッドに寝そべったのだった。そのまま、しばらくうとうとしてしまったらしい。

ベッドから起きあがると、白地のカーテンを開けて、テラスに出た。
いつの間にか、スコールはどこかに去ってしまっていた。
白い雲がぽっかり浮かび、気持ちのいい青空が広がり始めている。
すぐ目の前を、メコンの支流であるカーン川が横切っている。
そのゆるやかな流れと、静かなせせらぎから発せられた波が、しっとりと透明な空気を伝わって体全体に降り注ぐ。

雨期の終わりのラオス。
メコンの国独特の気体と液体が、ここでもまた全身をゆるく、心地よく包み込む。
その快い空気を深く吸い込んだ。さて、出かけようか。

「もう雨は降らないわよ」
宿を出るとき、念のため天気についてたずねてみると、女将さんはそう答えて、笑顔で送り出してくれた。カメラを手に、安心して歩き出す。

見上げると、青空が、ますます広く、大きく、深くなっていた。

到着したばかりだけど、もうすっかりこのルアンパバーンという場所が気に入ってしまった。