午前6時前。まだ眠りに包まれている宿を、そっと抜け出す。
闇が徐々に薄まっていく。夜のとばりが音もたてずに上がっていく。

通りの片隅でしばらく待っていると、夜明けを支配する静寂の青の中から、
朱色の一団が姿を現した。ゆらゆらと浮かび上がるように。
沈黙を守りながら、しっかりとした足取りで近づいてきたかと思うと、
幻のごとく去っていった。
鮮やかな朱色だけが、残像として脳裏をいつまでもゆらめいていた。