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バンビエンの村から、いったいどのくらい離れただろうか。
山と田んぼだけの素朴な風景だけが続いている。
道は赤茶色に変わっていた。
そろそろ引き返さないと、日暮れまでにバンビエンに戻れないかもしれない。
いや、もっと遠くへ行ってみたい。
相反する思いが交錯し始めたそのとき、小さな集落にたどり着いた。
道の脇に、小さな池があった。赤いつぼみが水面から顔をのぞかせている。
睡蓮だろうか、それとも蓮だろうか。自転車を道ばたに止めると、池のほとりにしゃがみこんで、その鮮やかで涼しげな姿にしばらく見とれていた。一服の清涼剤とはまさしくこのことだ。
もうこのへんで帰ろうか。赤い花がここまでこいできたご褒美のような気もして、いや、そんな風に思うことにして、ようやくふんぎりをつけた。
道に引き返し、自転車に乗ろうとした。
目の前を、日傘を差した女性が、静かに、涼しげに通り過ぎていった。
白地に赤。花のように鮮やかな傘。
午後の日差しを浴びながら、ゆらりと遠ざかっていく。
やがて、正面にそびえる山へと吸い込まれ、消えていった。
さっきと同じ素朴な風景だけが、再び目の前に広がっていた。
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