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見事な青空が広がったマラケシュをあとにした国営バスは、一路西へと快調に飛ばしている。
車窓を見やると、緑と黄色で彩られた平原がどこまでも広がり、その遙か遠くには、雪を頂いたアトラスの峰々が悠然とたたずんでいる。1週間前とほとんど変わらない光景が、目の前にあった。自分でも不思議な、信じられない気分でいた。

モロッコ最後の街はティトゥアンにしよう。そのあとは、一気にジブラルタル海峡を渡ってスペインに行こう。旅発つ前は、おおざっぱながらそのように決めていた。ほぼその予定通り、マラケシュからエッサウィラへ、続いてラバト、アシラと大西洋に沿って北上して、3日前、ティトゥアンにほど近いシャウエンまでたどり着いた。そのシャウエンを発ったのは昨日のこと。本来なら、今頃は最後の街ティトゥアンをあとにしてスペイン行きのフェリーに乗っているはず。が、どうしたことか、今もなおこうしてバスに揺られながらモロッコの大地を進んでいる。

「帰国する前に、もう一度あの街で大西洋をぼんやりと眺めながら2、3日過ごしたいと思って」

1週間前、今乗っている国営バスとまったく同じ便で一緒になった日本人がさらりと口に出した言葉が蘇ってきた。モロッコを一周するなかでエッサウィラがとくに気に入ってしまったので、帰国前にもう一度あの街で静かに過ごしたい。そう語った彼と同じように、ぼく自身も、いざエッサウィラを訪れ、立ち去ってみて、あの白壁や海風、大西洋、カモメが舞う空が醸し出す哀愁の雰囲気が無性に懐かく思えてきた。最後に旅愁を惜しむなら、ティトゥアンよりエッサウィラがいい、そんな気持ちが芽生えてきた。まるで彼の言葉の暗示にかかったかのように。

そんな後ろ髪引かれる思いをさらに強くさせたのが、エッサウィラを離れたあとに読むことになった一通のメールだった。モロッコ在住のある女性からのものであった。エッサウィラに滞在している間に読んでおくべきだったメール……。1週間前、偶然隣り合わせた日本人の言葉と、不意に届いたこのメールに導かれるように、モロッコの旅の終わりに、もう一度こうしてエッサウィラを訪れようとしている。

Essaouira: 2/10