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砂浜沿いの遊歩道をしばらく歩いたところで、塀によじ登り、一列に座った。
目の前にはビーチと大西洋。右手にはエッサウィラのメディナと港。その遙か向こうに、心なしか哀愁を湛えた夕陽が、静かに、確実に高度を落としていく。これがモロッコで眺める最後の夕陽となるのか。それとも……。
「花屋だけじゃなくて、ほかの仕事もやろうかなと考えているんです」
「何をやるの?」
「何がいいと思いますか?」
「日本食のレストランか、日本人向けの宿がいいんじゃない。ここにはそういうのがないし、日本人の個人旅行者もけっこういるし、需要はあると思うけど」
「やっぱりそれが手頃かなあ」
「もしオープンしたら、ぼくのサイトで宣伝するよ」
「あー、沈んじゃう」
あわてて写真を何枚か撮る。まもなく、太陽は大西洋の彼方に消えた。
急に、風が冷たさを増し始めた。
「このあと、どうするんですか?」
ずっと迷っていたことだった。が、こんな言葉が自然と出てきた。
「今晩、ここを発とうと思う。深夜バスに乗って。明日、一気に海を渡ってしまおうと思って」
いようと思えば、もうしばらくここにとどまれる。が、たとえそうしたとしても、10日後には帰らなければならない。諸々のことが日本で待っている。 モロッコの旅にピリオドを打つなら、Yさんたちと会えた今この時をおいてほかにない。
また、戻ってくればいい。そのときに、壁を乗り越えたYさんたちの輝く姿を見ることができたなら。
ポルトガルを目指そう。まだ見ぬサウダーデの国を。目指すのであれば、今夜すぐに、だ。
「ヨーロッパですね」
「うん……。でも、きっとまたここに戻ってくる」
「そうしたらまた会いましょう」
「ぜひ会いましょう」
気をつけて、がんばって。最後にこう言い合って、彼女たちと別れた。
夜のとばりが、すでに下りようとしていた。
人の波の引いたビーチをあとにすると、灯がともり始めたメディナに向かって歩き出した。
別れの寂しさと同時に、新たな活力が体の奥から湧き上がってくるのがわかった。
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Essaouira: 10/10 |
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