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スキポール空港を離陸したのは午後9時過ぎだったが、サマータイムに慣れていないせいか、こんな時間なのに日がまだ沈んでいないことに心底驚いてしまう。しかしカサブランカに着陸する頃には漆黒の闇に包まれ、驚きに変わって強い緊張と不安が全身に広がっていくのを感じていた。
空港でタクシーを拾い、カサブランカ市街へ。目星を付けておいたホテルに到着。予約もしていないし、深夜だし、泊まれなかったらどうしよう。が、幸い空き部屋はあり一安心。旅装を解くなりシャワーを浴びて、そのままベッドに倒れ込んだ。時計の針は午前1時を指そうとしていた。日本は朝の10時。出発からすでに24時間以上も経っている。長い一日だった……。
目が覚めた。もう朝? 寝過ごしたかも! あわてて時計を見ると、まだ7時前だった。カサブランカの街を早くこの目で見てみたいというはやる心が、疲れているにもかかわず体内時計を正常に機能させてくれたようだ。
ベッドの横のドアを開ける。思いのほかまばゆい光の襲来に、両目を手で覆う。目を細めながらテラスに出る。全身を包む空気は爽やかだが、真正面から受ける朝陽はすでに強烈だ。
ようやく目が慣れてきた。周囲を見回してみる。白基調の建物が並び立つ光景はヨーロッパのようでもあるけれど、通りを歩く人の、頭から全身をすっぽりと覆っている服装を見たとたん、イスラムの土地であるモロッコに来たのだという実感と期待が込み上げ、ドキドキしてきた。が、鼓動を早めている感情には、これからの旅路への不安も含まれていることを認めざるを得なかった。 |