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ロックパレスを後にし、車に乗り込む。が、数分走ったところで車は再び止まった。目の前には、赤茶を帯びた岩床が広がっている。その先は切り立った崖となっているらしく、抜群の眺望が開けている。車を降りると、崖を目指して歩く。
地元の家族連れや、外国人の姿も見かける。
今日は金曜日。イエメンでは金曜日が聖なる休日にあたる。その前夜ともなれば、各所で結婚式が盛大に催される。昨晩も、サナアの旧市街で光と音に満ちた幻想的な結婚式を二会場も見て回る機会に恵まれた。そして、一夜を過ごした金曜日の午前中には、前夜からの盛り上がりの余勢を駆って、新郎と参列者は郊外の見晴らしのよい場所に出かけ、祝いのジャンビーアダンスを舞う。その有名な踊り場のひとつが、今立っているワディダハル。文字通り「石舞台」である。
が、いざ到着したものの、新郎一行らしき集団なんてどこにも見あたらない。「銃を撃ってみないか」と観光客目当ての男たちが言い寄ってくるくらいのもの。様子がおかしい。ガイド兼ドライバーのハーディーさんも、「変ですねー」と首をひねっている。まだ10時前なので、訪れるのが早すぎたのか。このまま待っていれば、何かそれらしい兆しが見えてくるかもしれない。が、なにしろ直射日光が強烈で、崖の上では身を隠す場所とてない。スケジュールも押しているというので、やむをえず先を急ぐことにした。もちろん、心残りだ。ここでジャンビーアダンスを見たかったからこそ、わざわざ金曜日の今日ここに来たというのに。
「来週かその次の金曜日、無料でまたここに連れてきてあげます」
落ち込んだ様子を見てとったのか、マーシがそう言ってくれた。考えてみれば、帰国までに金曜日はあと2回巡ってくる。自力で来ることもできるんだし、なにもそこまで落ち込むこともないな、と気を取り直す。
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ジャンビーアの舞い: 6/15  |
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