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2. ウブドを歩く 


空港の外に出ると、強烈な太陽の光が目に飛び込んできた。バンコクよりさらに厳しく、文字通り刺すような陽射しだ。南の島に来たのだという実感がふつふつと湧いてきたが、そんな感慨も、この強力な太陽光線に照らされてあっというまに蒸発してしまいそうだ。

待つこと数分、空港のカウンターで頼んだタクシーがようやくやってきた。すぐにドアを開けると、太陽から逃れるように素早く後部シートに飛び込んだ。目的地は当然、芸能の村ウブドだ。

ウブドで最初に泊まろうと思ったのは、「グリーンフィールド」というホテルだった。ウブドのはずれに位置しており、静かに過ごせそうだと思い、候補に挙げておいたのだった。タクシーは1時間ほどでウブドに到着。グリーンフィールドホテルの前で降りた。空には、いつのまにか黒っぽい雲がモクモクと立ちこめていた。天気が悪くなったのは、内陸部に入ったからなのだろうか。

物腰の柔らかいフロントの女性に案内されて部屋を見せてもらうが、あいにく見晴らしが良い部屋は空いていなかった。他のホテルを当たってみようとも考えたが、ひどい疲労を感じていたため、そんな気力は沸いてこない。それに、とうとう雨が降り出した。とりあえず、今日と明日はここに泊まることにしよう。フロントの女性にそのように告げてチェックインの手続きをとった。

 
 
 
翌朝、目が覚めた僕は、ベッドから飛び起きるとカーテンを開け放った。天気が心配だったのだ。中庭に茂っている植物に遮られて見晴らしは良くないが、どうやら晴れているようだ。ジャランジャランを楽しめそうだ。が、その前に、たっぷり朝食を取っておかなければ。

ガラスがはめ込まれた木製の引き戸をガラガラと開ける。部屋を出ると、木々で覆われた中庭を横切る。階段を上り、食堂に入ったとたん、ハッと息をのんだ。オープンエアの食堂の外に広がる目にも鮮やかな景観。まばゆい朝日を浴びて、ライスフィールドが青々とした輝きを放っている。昨日もここから同じ景色を眺めたはずなのだが、今目にしている景色は、昨日の雨空の下の景色とはがらりと違う表情を放っていた。空の青も、花の赤も、田園の緑も、自然の色ってこんなにも鮮烈だったのか。これほどまでに深くて濃い自然の彩りを目にしたのは、生まれてこの方初めてかもしれない。眠気も一気に吹き飛んだ。
 
朝食を終え、なおも飽きずに鮮やかな朝の緑を眺めていると、正装に身を包んだ女性が敷地の中を行ったり来たりしはじめた。手には花を携えている。お供えを捧げる時間なのだろうか。背をピンと伸ばして歩くその女性の姿は、実に凛としている。こうしてウダウダ過ごしている自分も、その姿になんだかシャキッとさせられる。また、指に挟んだ花びらでコップの水をパッパッとはじき、回りを清めてからお供えを捧げるしぐさも、実に見事で鮮やかだ。これ以後、さまざまな場所で、神々への感謝の素直な発露としてのごく自然な日常の行為を目にすることになる。

お供えの様子を見終えると、さっそくジャランジャランを楽しもうとホテルを後にする。ウブドで印象的なのは、ここかしこに広がる水田だ。それだけを眺めながら歩いていると、日本のどこかの田舎に帰郷したような、なつかしい感覚が全身に広がる。ただ、水田の向こうに一列に並んでいる椰子の木と、遠くからかすかに聞こえるガムランの調べが、自分は今バリにいるのだという実感を与えてくれていた。
 
モンキーフォレスト通りを北上する。賑やかな通りだと聞いていたが、それほどでもない。確かにたくさんのお土産屋やレストランが軒を並べているが、軽井沢や清里とは雰囲気がまったく違う。田舎の一本道という雰囲気だ。途中、両替を済ませ、旅行代理店でジョグジャカルタ行きのエアチケットを購入した。

さらに北上し、サッカー場を右に折れたところにあるレストランで昼食を取る。初めてガドガドを試してみるが、ピーナッツソースとライスいう組み合わせがなかなかマッチしていておいしい。レストランを出ると、ハヌマン通りに入ってゆっくりと宿に向かって下った。途中、「クナンクナン」というロスメンの看板が目に飛び込んできた。実はここも、旅行前の宿泊候補地のひとつだった。少し奥まったところにあるその敷地に入ってみると、南側にライスフィールドが広がっていて、部屋からの見晴らしがとても良さそうだ。ロスメンの青年にたずねてみると、部屋は空いているという。しかも一泊7万ルピア。かなり安い。迷わず明日からの部屋を予約することにした。
 
宿を確保した僕は、再び表通りをぶらついた。途中、「ベベブンギル」という有名なカフェで一服したのち、ホテルに戻った。夜は、ケチャダンスを鑑賞する。何の予備知識もなかったので、最初「ケチャケチャケチャ」と言って半裸の人間が出てきたときは正直かなりびっくりしたが、女性の踊り子が登場してからはその魅惑的な舞にどんどん引きずり込まれていった。最後のファイヤーダンスも迫力満点だった。



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