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3. クナンクナンの夜

朝食を済ませると、「グリーンフィールド」をチェックアウト。その足で、昨日予約しておいたロスメン「クナンクナン」へ移動。昨日確認しておいたとおり、部屋の前のテラスからはライスフィールドが一望できる。この展望を1日中自分のものにできるのだ。楽しい滞在になりそうだ。

たまっていた洗濯を終えると、部屋のベッドで一息ついた。さて、今日はどうしようか。ウブドではゆっくり過ごそうと決めていたので、細かいスケジュールは立てていなかった。そもそもウブドには、目玉となるような観光スポットはこれといってない。ブラブラゆっくり歩いて過ごすのがぴったりの村だ。しばらくの間ベッドの上で地図を眺めながら思案した末、プリルキサン美術館に行くことにした。

ブラリと宿を後にし、灼熱の太陽の下に出た。20分ほど通りをブラブラ歩き、ピナ・ウィサタ(観光案内所)をさらに数百メートル行くと、お目当ての美術館に到着した。構内に入ると、木々が青々と茂った庭園が広がっていた。マイナスイオンに満ちたしっとりした空気に包まれる。バリ人画家の絵画が展示されている館内もとても静か。落ち着いた雰囲気の中、じっくり鑑賞することができた。

美術館を出ると、小雨がポツリポツリと降り始めた。雨宿りがてら、すぐ近くのレストラン「カフェ・ロータス」に入ってみた。念願のナシゴレンを食す。ナシゴレンはもちろん、ウブドでは何を食べても本当においしい。
 
雨はまもなくやんだが、特に行きたいところもなかったので、「クナンクナン」に戻ることにした。自分の部屋に入ると、昼寝を決め込んだ。けだるい昼下がり。1時間ほどウトウトしたあとは、部屋の前のテラスにある木製のイスに腰掛け、目の前に広がるライスフィールドをボーっと眺める。

陽が傾くにつれて、ライスフィールドの色合いが微妙に変化していく。目を奪われているうちに、いつしか太陽は椰子の木の向こうに落ちようとしていた。西の空が深いオレンジ色に染まっていく。太陽が地平線の下に完全に隠れると、その鮮やかなオレンジ色が、次第に暗く薄くなっていく。気がつけば、夜のとばりにすっぽりと包まれていた。

自然の表情の変化を眺めているだけで、時の経つのも忘れてしまう。至福の時。日本でも、こんな色彩豊かな自然の中でゆっくりと生活できたなら。日本にだってこうした場所は探せばあるに違いない。ただ、そうした環境に移り住む勇気と決断力がないだけなのだ。都会の利便さと快適さに惹かれてしまうもう一人の自分がいる。そんな自分は、つかの間の南国気分で満足しておいたほうがいいのだろう。が、「いつかは」という思いも心のどこかに秘めておきたい。
 
「クナンクナン」の庭から見た夕焼け
 
夜は、近くの寺院でバロンダンスを見学。宿に戻ると、ライスフィールドを覆うように見事な星空が広がっていた。この旅では、南十字星を見ることも目的のひとつだった。目の前が開けているこのロスメンを選んだのも、実はそのためだった。さっそく部屋から星図を持ち出して、それを頼りに星空を見回した。

サザンクロスは、意外に簡単に見つかった。とても小さい星座ではあるが、明るい4つの星が傾き加減にクロスを形成している姿は、広い星空の中でもよく目立っていた。子供の頃から、一度は見てみたいと思っていた南十字。この地でようやくその夢がかなった。深い感慨に浸る。東京からは冬の地平線すれすれにしか見えない一等星カノープスも、ここでは天高く輝いている。

それからしばらく、日本からは見えない星々を見つけては感嘆の声をあげ続けた。突然、その視野の中を光がよぎった。流れ星だろうか? よく見ると、それは蛍だった。そういえば、このロスメン「クナンクナン」の「クナン」とは蛍という意味だったな、と思い出した。

遠くからは、ガムランの調べがとぎれとぎれに聞こえてくる。「音と光の夕べ」っていうタイトルを付けたくなるような、素敵な南の島の夜。やっぱりウブドに来て正解だったぜ、などと一人悦に入りつつ、なおも飽きずに星空を見上げていた。


南十字星(中央やや上、左に傾いている)。
その左下で明るく輝いている2つの星は、ケンタウルス座のアルファ星とベータ星。
 
  
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