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7. ボロブドゥール遺跡群へ 

 
空港で渡されたバウチャーを見せて「マノハラ」にチェックイン。荷物を置くと、さっそく遺跡見物に出かけることにした。

ボロブドゥールに足を踏み入れる前に、まずは少し離れたところに位置するムンドゥッ寺院に行ってみよう。そう決めてホテルを出たはいいが、肝心の行き方がわからない。徒歩では遠すぎるし、かといってタクシーを使うほどの距離でもなさそうだ。「どうしよう」と思案しながら遺跡公園の出口付近をウロウロしていると、ウブドを歩いているときと同じように「トランスポート?」と声をかけられた。バイタクの運ちゃんだ。ちょうどいい。料金をたずねてみると、往復5000ルピアとの答え。ぼったくり料金でもなさそう。即座にOKと返答する。彼のバイクはボロかったが、アンコール遺跡巡りで乗り慣れていたこともあり、気後れすることなくバッグシートにまたがった。
 
数分ほどでムンドゥッ寺院に到着。芝生が植えられた敷地の中に、ポツリと寂しくたたずんでいた。観光客の姿もほとんど見えず、がらんとした雰囲気。寺院の前に並んでいるおみやげ屋さんもひまをもてあそんでいる様子だ。

ムンドゥッ寺院は、外観自体の魅力はほとんどなかった。楽しみにしていたのは、院内に安置されている仏像だ。東南アジアの最高傑作だという評判を耳にしていたからだ。石段を上って堂内に入る。真っ暗だ。仏像の影も形も見えない。がっかりしていると、一人のおじさんが階段をゆっくり上ってきた。遺跡の管理係のようだ。彼は手に持ったライトで仏像を一体ずつ照らしてくれ、そのうえ、簡単な解説もしてくれた。ありがとうおじさん。じっくり鑑賞する暇はなかったが、おかげでクプタ様式の流れをくむ、ふっくらとした尊顔を拝することができた。鑑識眼のない僕には、本当に東南アジアの最高傑作かどうかは判定できなかったけれども。
東南アジア最高傑作のひとつと
いわれている如来像。

史跡公園に戻ると、公園内の食堂で簡単なランチをとった。そしていよいよ、ボロブドゥールと対面することに。整備されたこぎれいな参道を進む。こぎれいなのはいいのだが、あまりにも「人工臭」がしすぎる気もした。

ボロブドゥールは、三大仏教遺跡の中でも特に謎に満ちた遺跡だ。9世紀前後に栄えたシャイレンドラ王朝によって建造された大乗仏教施設であるが、具体的にどのような目的で造られたのか、今もって明らかになっていない。しかも、シャイレンドラ王朝が滅亡すると、ボロブドゥールはすぐにうち捨てられ、やがて密林と火山灰に埋もれてしまう。ボロブドゥールが再発見されたのは、実に1814年のことだ。そんな謎を秘めた巨大遺跡なのだから、それにふさわしい神秘的な雰囲気作りをして欲しいものだと注文のひとつもつけたくなる。

そんな文句をつぶやきつつ参道を数百メートル歩くと、前方の小丘にボロブドゥールが姿を見せ始めた。正面の階段を上りきり、巨大遺跡の目の前に立った。何基もの尖塔を誇るアンコールワットに比べると見た目はのっぺりしているし、規模も小さいから、「おぉー」と圧倒されるという印象は受けないけれど、その分、凝縮された緻密さというか、ずっしりとした質感が伝わってくる。

 

参道から見上げたボロブドゥール

予想どおり、遺跡はインドネシア人の学生でいっぱいで、ガヤガヤと騒がしい。ただ、彼らは正面の階段からまっすぐ頂上を目指して上っていくだけなので、左右の回廊はガラガラ。レリーフはゆっくりと見学できそうだ。

まずは、第一回廊に登り、時計回りにゆっくり進んだ。回廊を挟んで左右の壁には、ジャータカ(前世話)や出家物語にまつわるレリーフが上下二段に彫られている。ひとつひとつのレリーフに焦点を当てて観察してゆくと、さすがに風化の激しさを感じざるを得ないが、視野をズームアウトして、回廊の両側にずらりと並ぶレリーフ群全体を見渡すと、その膨大な量に圧倒されてしまう。完成まで一体どのくらいの年月が費やされたのだろう。

第二回廊も同じように時計回りに歩く。しかし、アンコールワットと違って回廊に屋根がなく、強烈な日差しをもろに浴び続けながらの見学なので、頭がクラクラしてきた。じっくりレリーフを鑑賞できたのも第二回廊までで、第三・第四回廊は文字通り駆け足での見学となった。早く頂上に登って一休みしないと倒れそうだ。


釈迦が説法する場面

ボロブドゥールの頂上から見渡す景色は圧巻だった。目の前にそそり立つ釣鐘型のストゥーパ群の向こうに、椰子の樹林がどこまでも広がっている。

一説では、方形の第一回廊から第四回廊までが仏教でいう色界を、ストゥーパが並び立つ目の前の円形回廊は無色界を表しているという。確かにここでは天界から地上界を見下ろす感覚を体験できる。

しばらくの間この壮大な眺めを楽しむと、円壇をぐるりと回りながら、幾重かに並ぶストゥーパを見て歩いた。それぞれのストゥーパには、仏像が納められている。頭部がもぎ取られた仏像も多い。そんななか、「幸福の仏像」と呼ばれる特別な仏像が納められたストゥーパを発見した。この仏像の指に触ることができれば、夢が叶うという。そんな御利益を信じてか、たくさんの観光客がそのストゥーパの周囲に集まり、格子状の隙間から腕を差し込んで、内部に安置されている仏像の指に触れようと躍起になっていた。さっそく僕もストゥーパの中に腕を入れてみる。が、どれほど懸命に手を伸ばしてみても、仏像には届かない。周囲のインドネシア人はみんな仏像の指に触れているのに。彼らより腕が短いのだろうか。う〜ん。あるいは、単に腕を入れた場所が悪かっただけかもしれない。別の隙間からもう一度試してみたかったのだが、群がってくる人の多さにあきらめざるを得なかった。

悔しさと心残りを抱きつつストゥーパを離れ、眼下に広がる景観を眺めていると、何だか雲行きが怪しくなってきた。やがて、雨が降り出した。スコールか。スコールだったらすぐに止むから支障はないだろう。傘を広げて頂上にとどまることにした。しかし、雨足は弱いながらも一向にやむ気配がない。さらに悪いことに、遠くに稲光が走るのが見えた。アンコールワットでも通り雨に降られたが、回廊が屋根で覆われていたので安心して一休みできた。が、ここには遮る屋根も逃げ込む内部空間もない。てっぺんにとどまっていたら雷に直撃される危険さえある。ここはひとまずホテルに戻ったほうがよさそうだ。晴れたらまた戻ってくればよいのだから……。



晴れ間がのぞき、虹が見えたときも
あったのだが・・・

残念ながら、ホテルに戻ってからも雨は止むことがなく、そのまま日が暮れ、夜に突入してしまった。結局、アンコールワットに続いて、この地でも夕日を見ることができなかった。どうやら、今回の旅では夕日とはまったく縁がないらしい。

「マノハラ」ホテルは非常に静かだった。宿泊客はどうやら僕1人らしい。夕食は敷地内のレストランでチャプチャイを食べた。その後、部屋に戻り、TVでセリエAのローマ戦を観戦。ナカタがゴールを決め、うれしいい気分のまま就寝。明日のサンライズは絶対に見ることができますようにと祈りつつ。
 
  
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