5時45分、アラームの電子音で目が覚めた。すぐにベッドから起きあがり、カーテンを開ける。すでに空はだいぶ明るくなっていた。しまった、アラームのセット時間が遅かったのか!
慌てて服を着替えてホテルを飛び出した。白人の観光客が参道を歩いているのが遠くに見えた。ジョグジャカルタからバスツアーでやってきたのだろうか。彼らに遅れまいと、早足でホテルの敷地を横切って参道に出た。正面を見上げると、昨日登ったボロブドゥールが、深い朝霧に包まれて、ひっそりとおぼろげにたたずんでいた。
立ちこめている朝霧はかなり深い。ボロブドゥールの頂上のストゥーパさえもはっきり認められないほどだ。この深い霧の中では、あの頂上に登っても朝日は拝めそうもない。半ばあきらめつつも、一縷の望みをかけて、まっすぐに延びる石段をいっきに駆け上がった。頂上にたどり着くと、エイヤっと振り返って東の空を見つめた。深く立ち込めている霧のはるか彼方に、今しがた昇ったばかりの太陽が、薄白く、おぼろげに輝いていた。
 |
深い霧に包まれ、ストゥーパ以外は何も見えない |
アンコールワットで見た鮮やかな朝焼けと真っ赤な太陽を当然のごとく期待していたので、この薄ぼんやりした光景を目の前に、失望を隠せなかった。ここから眺める朝日こそボロブドゥールの旅のハイライトだと楽しみにしていたのに。が、そんな失望も、白くて深い霧に包まれ、幾重にも並び立つストゥーパに囲まれた状態に置かれているうちにだんだんと消え去り、彼方に霧散していくのを感じた。静寂さと神秘さを演出するこの朝霧こそ、仏教の聖地ボロブドゥールの夜明けにふさわしいのかもしれないな、と。
日が高くなるにつれ、その霧も少しずつ晴れていった。それにともなって、眼下に広がる樹海と、その向こうにそびえる山々が、その全貌を徐々に現し始めた。
遠くで煙を上げている山が見えてきた。あれはなんという山なのだろう? 一方、南に目を向けると、切り立った山々の中腹で、細長い雲が静かにたなびいている。
仏教の聖地にふさわしい穏やかな心洗われる風景が広がっていた。無明の世界が消え去り、光り輝く仏の世界がこの世に現れた、といったら大げさだろうか。

陽が昇るにつれて霧は引いてゆく。 やがて、密林のむこうに山々が見えてきた |
|
|