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9. ジョグジャを歩く
 

10時半。「マノハラ」をチェックアウトする。フロントに「タクシーでジョグジャカルタへ行くつもりだ」と告げると、「タクシーはここではつかまらない」という返事。バスならもっと安く行けると勧められたが、それでは時間がかかりそうだ。なるべく効率的に観光したい。結局、ミニバンを7万ルピアでチャーターすることにした。痛い出費だが、時間を優先する以上仕方がない。

ミニバンを待っている間、ホテルの従業員と話をする。まだ今夜の宿は決まっていないんだ、と言うと、「ジョグジャでホテルを探すなら、プラウィロタマン通りに行くといい」と教えてくれた。その通りなら、確か『地球の歩き方』にも載っていたような気がする。ほかに当てもないし、ここは彼の勧めに従うことにしようか。さらにいろいろ世間話をしているうちに、頼んでおいたミニバンが到着する。1泊しかできなかったが、従業員の対応も良く、いい感じのホテルだった。

1時間ほど走っただろうか、ミニバンはジョグジャの市街に入った。急に交通量が増えてきて、車がなかなか進まなくなった。ジョグジャ市街は、車とバイク、それに馬車とベチャが無秩序に道路を行き来しているような感じ。けっこう大きい町なんだとびっくりした。ここに来る前にウブドに1週間いたので、なおさらそう感じるのかもしれない。

プラウィロタマン通りに到着。まずは、『歩き方』で目をつけておいた「Duta Guest House」に行ってみた。一番いいシングルルームを見せてもらう。エアコン、半野外のバスタブ、TVが付いていて調度もいい感じだ。料金をたずねると「朝食・税込み170,000ルピアを105,000ルピアに負ける」と言うので、ここに泊まることに決めた。マノハラといい、このホテルといい、こちらから請求する前にディスカウントしてくれるのでうれしい。これもシーズンオフだからなのか。いい時期に来たのかも、とちょっとうれしくなった。

チェックインして一息ついたので、さっそく観光に出かけることにした。まずはクラトン(王宮)に行ってみようかと思い、フロントで行き方をたずねると、「クラトンへの入場は1時までなので今からでは間に合わない」と言われてしまう。がっかりしたが、まあ明日行けばいいだろう。代わりに、メインストリートのマリオボロ通りを散歩しようと考えた。そうフロントに告げると、「スリには注意するように」との忠告を受けた。

ホテル近くのレストランでミーゴレンを食べた後、声をかけてきた年輩のベチャの運ちゃんと、マリオボロ通りまでの料金を交渉する。おじさんは、マリオボロ通りまでは遠いからと言い張って、5000ルピアより料金を下げようとしない。それはちょっと高いんじゃないのと思ったが、外は暑いし、別の運ちゃんと交渉するのも面倒だ。5000で手を打つことにした。

ベチャはマリオボロ通り目指してゆっくりゆっくり進んでいった。インドのリキシャと違い、座席が自転車の前方にあるので、近くを車がすれ違うときなど、正面衝突するんじゃないか、と一瞬冷やりとさせられたりもする。でも、ゆっくり流れていく街並みを、何物にも遮られることなく眺めることができる。それが最高に心地よい。それにしても、この猛暑の中、高齢の身で人を乗せて走るのはきつそうだ。乗る前は高いと思ったけど、やっぱり5000ルピアでは安かったかな、と少し罪悪感を覚えた。

マリオボロ通りに到着。ジョグジャカルタの駅に向かってぶらぶら歩き出した。月曜だというのに、通りは人でいっぱいだ。左右の歩道沿いには、おみやげ屋がびっしりと並んでいる。確かに、ホテルの人がスリに注意と言ったのもうなずけるな、と一人納得し、バッグに気を配りながら人ごみを縫って歩道を進む。露店を冷やかしながら散歩を続ける。特にこれといって買いたいものは見つからなかったが、地元の人々のにぎわいを肌で感じるだけで面白かった。

店を冷やかしながら楽しく歩き回ったが、しばらくするとさすがに疲れを覚えたので、いったんホテルに戻ることにした。来たときと同じ場所で、別のベチャをつかまえた。今度は若い運ちゃんだ。交渉すると3000ルピアになった。さすがに若いだけあってこぎ方が違う。さっきよりかなり早くホテルに着いた。

ジョグジャカルタのマリオボロ通り

ホテルの部屋でしばらく休んだ後、夕食を取りにホテルを出た。涼しくなったので、少し周りをぶらついてみる。プラウィロタマン通りは道幅も狭く、本当にそこいらの路地といった感じだ。そうした目立たない通りではあるが、道沿いには小奇麗なホテルやネオンの輝くレストランが立ち並んでいる。おみやげ屋や旅行代理店、それにインターネットカフェもあり、旅行者に必要なものはすべて揃っている。

ひととおり散策した後、ホテル近くのレストランに入った。久しぶりにステーキを注文する。テーブルに頬杖をつき、何とはなしに外の通りを眺めていると、1人の日本人が声をかけてきた。四、五十代くらいの男性だ。ジョグジャの大学でインドネシア語を勉強して1年になるという。しばらく彼と話しを続ける。近頃日本人の観光客が少ないね、と彼。「それは外務省の渡航延期勧告のせいじゃないですか」と僕。すると彼は、「ここで勉強している日本人の学生は、勧告が出たと聞いて笑ってますよ。ジョグジャはずっと安全だし、なにより日本人が来なくなったので、地元の人間はすごく困ってるんですよ」と残念そうに言う。ちょうどそのとき、注文したステーキがテーブルに届けられた。彼は「おじゃましました」と言い残して僕の席を離れると、レストランの従業員となにやらインドネシア語で親しげに話し始めた。

確かに、このレストランを見渡しても、客はほとんど入っていない。通りを歩いても、欧米人の姿こそ目に付くが、日本人はほんの数人しか見かけなかった。シーズンオフとはいえ、本来ならもっと多くの日本人がいて、通りももっと賑わっていてよさそうに感じる。おかげで落ち着いて過ごせるから、その点はいいのだが、この地区で働く人々のことを考えると、もっと賑わって欲しいとも思う。目の前に置かれた超特大ステーキと格闘しながらも、気持ちは味わうことに集中できなかった。
 
 
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