 |
マラケシュを出発して数十分もたつと、道路の両側に、若々しい草原が広がり始めた。
黄色や赤い花の群が、ときおり車窓に現れては消えていく。
遙か彼方には、雪で覆われたアトラスの峰々が静かにたたずんでいる。
モロッコでこんなに瑞々しい風景を目にすることができるとは。
そんな驚きを味わえるのも、早春の3月に訪れたおかげかもしれない。
「エッサウィラがすごく気に入っちゃったんですよ」
隣の席の若い日本人が言った。レゲエ風の長髪の持ち主だ。数週間かけてモロッコを一周し、もうすぐ帰国するという。
「だから、帰国する前に、もう一度エッサウィラで大西洋を眺めて過ごしたいと思って」
彼は夜行で今朝マラケシュに到着し、その足でこのエッサウィラ行きバスに乗り込んだのである。
「旅の終わりはエッサウィラで大西洋を、かー。そんなにいいところなんだ、エッサウィラって」
「ええ、特になにがあるというわけじゃないんだけど……とにかく雰囲気が最高なんですよ」
彼のその言葉に、ぼくは素直にうれしくなった。惹かれるがままにエッサウィラに向かおうとしているぼくの選択の正しさを裏付けているように思えたからだ。
|
|
1/17  |
|