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午後3時。ウェルバから乗り込んだバスは、スペイン西南端の国境沿いの街、アヤモンテに到着した。

バスを降りた数名の乗客はみな足早にいずこかへ散っていき、ぼく一人だけがポツンと取り残された。ガランとしたバスターミナルの建物を出ると、出入り口の前に並んでいる柱に目が留まった。深い青地に、アラベスク模様が施されている。これがアズレージョというものか。その柱の列を通り過ぎると、ふいに、まばゆい光線にさらされた。空を見上げてみる。雲ひとつない抜けるような青空がそこにはあった。心なしか遠く、深く、そして寂しく感じられるのは、大西洋に、そして国境に近づいたせいだろう。アズレージョと空。その憂いを帯びた青は、これから渡るポルトガルへの序曲のようだ。

街の中を進む。昼過ぎの通りはしーんと静まりかえっている。人の気配というものがほとんど感じられない。バッグを引きずる音だけが、通り沿いの壁に当たって、無遠慮に響く。

降り注ぐ透明な陽光
深い寂しさを漂わす青空。
幻のようにたたずむ白壁。

ポルトガルへの序曲はすでに奏でられている。

ひっそりとした家並みを抜けると、一本の通りに出た。Muelle De Portugalという、ポルトガルの名を冠したその通りを渡ると、そこは船着き場だった。

目の前を、海のように広い川が悠々と流れている。スペインとポルトガルを隔てるグアディアナ川だ。
遠く対岸には、白い家々がぽつりぽつりと見える。
この川を渡れば、ついにポルトガル。

わずか十数人ばかりの客を乗せて、小型のフェリーは静かに岸辺を離れた。

さよならスペイン。わずか1日の滞在だったけど、アルヘシラスからバスを乗り継いだ移動は楽しかった。

吹き抜ける白い風が気持ちいい。
早春のやさしい太陽の光を反射して、川面の小さい波がキラキラと輝いている。その輝きを追うように進むにつれ、憧憬の彼の地が、ゆっくりと目の前に迫ってくる。

おとといは、モロッコのタンジェからフェリーに乗ってスペインのアルヘシラスへ。そして今日は、こうしてスペインからフェリーでポルトガルへ。陸路や空路もいいけれど、やはり船の上で味わう国境越えの旅情は格別だ。




十数分後、対岸の街、ヴィラ・レアル・デ・サント・アントニオに上陸した。
船を下りたところに小さいバスターミナルがある。時刻表をチェックしてみるが、今日の目的地であるファーロ行きのバスはしばらくないようだ。鉄道駅に向かうことにした。

Faro: 2/11