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モンサラーシュ。
アレンテージョの丘にたたずむ懐かしき村。
ポルトガルで最も美しいと称えられる白壁の家並み。
朝と夕には「沈黙の音」がするという静寂の集落。

この村の存在を知ったのは、さほど遠い昔のことではない。ある旅行雑誌の記事を読んだときが、最初の出会いだった。添えられた写真の真っ白で寂しげな家並みに、淡い旅情をそそられた。二度目の出会いは、それからずっと後のこと。とある旅本の中で、この村を形容する「沈黙の音」というロマンチックな言葉と出会った。最初の出会いで覚えた淡い旅情が蘇った。蘇っただけではなく、一気に深く強くなっていった。この村は必ず訪ねなくては。初めてポルトガルを旅するにあたって、いつの間にかそれが目的らしい目的のひとつとなっていた。交通の便は悪いことこの上ないし、モロッコ滞在が予定外に長引いて残りの日数も少なくなってしまっていたのだが、その想いに変わりはなかった。

ファーロから乗り込んだバスは、アレンテージョ地方の中心都市、エボラに到着した。バスターミナルの案内所へと急ぐ。モンサラーシュ行きのバスは1日に2本だけで、その1本が、午後1時に出るという。時計を見ると、12時45分。奇跡的なグッドタイミング。すぐに指示された乗り場に向かった。

何人かの地元の乗客と、何人かの旅行者を乗せて、バスは出発した。途中、レゲンゴス・デ・モンサラーシュという町でバスを乗り換える。車窓の風景は、いっそうのどかでやわらかくなっていく。こんな退屈な道を運転するのはもう飽き飽きだ、といわんばかりの表情を浮かべて、運転手は狭い田舎道を飛ばしに飛ばす。ちっぽけな村をいくつか経由し、下校途中の学生を乗せたり降ろしたりしながら、さらに飛ばし続ける。ガタゴト揺られることおよそ30分。車窓の彼方に、小高い丘が見えてきた。その頂上には、城郭らしき黒茶の建物。モンサラーシュに違いない。

バスはその丘を荒々しく上りきると、城壁のふもとで停車した。とうとうモンサラーシュに来てしまったのだ。

丘からの眺めは、期待をはるかに超えて素晴らしいものだった。3月の終わり、春まだ浅いアレンテージョ。その大地は、すでに肥沃で鮮やかだ。緑の平原が見渡す限り続いている。川が蛇行しながらいずこかへ流れていく。あの川の向こうは、もうスペインなのだろうか。バッグをかたわらに置いたまま、しばらくこのパノラマを楽しみ、じわじわ込みあげてくる感慨に身を任せた。


Monsaraz: 2/18