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いったいなぜ、この最果ての国に再び来てしまったのだろう。    


赤い城壁で囲まれた旧市街(メディナ)、その中心地にあたるジャマ・エル・フナ広場の手前を走る大通りでタクシーを降りた。トランクに入れてあったバッグを受け取り、陽気な運転手に料金を払うと、右手に延びている並木道へと一歩足を踏み入れた。広々としたその道の片端には、クチと呼ばれる観光馬車が一列に並び、所在なげにお客を待っている。何十歩か進んだところで背後をふと振り返ると、タクシーを降りた大通りの向かい側に、巨大な角形の塔がそびえ立っていた。クトゥビアという名の、世界最大級の高さを誇るミナレットである。3年前の5月に初めてこの地を訪れたとき、近くから、遠くから、何度も目にした巨大な塔であり、格好のランドマークでもあった。「またマラケシュに来てしまったのだなあ」という実感が、このとき初めて胸の奥からこみ上げてきた。

「また来ることができた」ではなく「また来てしまった」という微妙な感慨が湧いてきたことが、我ながら不思議だった。なにがそう感じさせているのだろう。思えば、この休暇が決まったとき、行きたい国はほかにいくつもあった。ところが、まるでなにかに引き寄せられるように、ぼくはこの「日の沈む国」へと飛んできて、いまこうしてクトゥビアを懐かしげに見上げている。ぼくをこの果ての国へと駆り立てた「なにか」とはいったいなんだろう……。

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