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薄暗い店内から、青空がのぞき、爽やかな風が舞い込む中庭のテーブルへと席を移したぼくたちは、自己紹介から話を始めた。
ぼくは一介の旅行者にすぎないが、聞けば、Yさんも初めはモロッコ好きのただの旅行者であったとのこと。何度かモロッコを訪れる中で、なぜか海沿いのエッサウィラがとても気に入ってしまい、いつの間にか住み着いてしまったという。その思い切りのよさに、まず驚いた。組織の派遣職員でも、駐在員の妻でも、モロッコ人と結婚しているわけでもない。昔から数多くのアーティストが住み着いているエッサウィラではあるが、そういう人種にも属していないようだ。外見からも話し方からも、とてもおしとやかな大和撫子といった印象を受ける。だからこそ、好きだから住み着いてしまったとサラリと語る彼女に対して驚嘆を隠せなかった。と同時に、エッサウィラなら、そういうのもありえるかな、そう思った。旅人を引き寄せてやまない何かがある街なのだ、ここは。
「へぇー、それはすごい。でもその気持ち、なんとなくわかる気がする」
「わかります?」
「うん。ぼくもこの街の門をくぐったときから、ああ、いいな、この雰囲気、と一瞬で気に入ってしまったから。とくに、この青空と海風が最高に心地いいよね。このままずっと包まれていたいっていう気にさせられるというか」
「ほんと、そうなんです。でも、今の時期って、天候が荒れやすいんですよ。こんなに晴れて穏やかな日はめずらしいです」
「へぇー、じゃあとてもラッキーということだね。わざわざ戻ってきてよかった」
「きっと祝福されているんですよ、この街に」
「ということは、ここにずっといろってことなのかな」
それも、いいな。本気でそう思いそうになった。
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Essaouira: 7/10  |
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