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若者が追ってこないことを確かめると、ふーっと一息ついた。が、すぐに大通りに出るのはまずい。しばらくは裏道を進もう。人気のない路地を選んで、適当な方向へと進んだ。

いま自分はどこを歩いているのだろう。若者を巻いたのはいいけれど、自分のいる位置もすっかりわからなくなってしまった。この曇天といい、今日は最初からついてない。

やがて、何本かの道が集まるロータリーに出た。手持ちの地図を広げてみたが、おおざっぱすぎて、ここがどこなのか見当もつかない。目的地であるグランモスクはどっちの方向にあるのだろう。仕方なく、カンを頼りに一本の道を選んで歩き出した。が、不思議なことに、しばらく進むと元のロータリーに戻ってきてしまった。おかしい。今度は違う道を進んでみる。また戻ってしまう。一度ならともかく、それが三度も重なった。狐につままれた気分だ。

「マドラサに案内してやろう」。途中、いかにもうさんくさい青年に何度か声をかけられた。さっきの件で腹が立っていたので、もちろんきっぱりと拒否した。が、こんなに難渋するのなら、やっぱりお金を払って案内してもらえばよかったかな、などと急に弱気になり始める始末。しかしそんなときに限って、ガイド男は影すら見せないのであった。

通りがかりの人を捕まえてたずねてもみた。「あっちだ」。「こっちだよ」。彼らが指し示す方向に歩いていくのだが、やっぱりたどり着けない。同じ市場や路地をいつまでも歩き回るばかりだ。

グランモスク・・・果たして本当に存在するのだろうか。ひょっとしたら、みんな「ぐる」なのではないか。ぼくはどこにもない架空の目的地を探してさまよっているだけではないのか。人は自信ありげに針路を指し示す。こっちだ。あっちだ。その指先に従って進んでみても、何も見つからない。道をさまよい、いろんな人とすれ違い、さまざまな光景が通り過ぎていく。いつしか足は疲れ、時間は過ぎ去り、途方に暮れ、天を仰いでも、狭くてよどんだ空しか見えず……まるで人生だ。

わけのわからない考えで頭が混乱し始めている。あきらめてここから脱出しよう。

意を決して、狭い路地をどこまでもズンズン奥へと進んだ。やがて、広い道に出た。すぐ向こうに、大きな門があった。このあっけなさに呆然とする。メディナの出入り口には容易にたどり着くのに、なぜグランモスクが見つからないのか……。

船でラバトに戻る気にはなれなかった。近くの人にグランタクシー乗り場をたずね、そこでタクシーに乗り込んでラバトに向かった。グランモスク探しには時間が余ったら再挑戦しよう。

Rabat: 8/12