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スペインのオスタルは通常、ビルの数フロアを使って営業している。このオスタルもまさにその典型といえそうだ。
エレベーターを使ってフロントに向かった。応対に出てきた主人はとても気のよさそうな人だった。けれども、彼がスペイン語しか話すことができないとわかったとき、かなりとまどってしまった。なにしろ、つい数時間前まではアラビア語とフランス語が飛び交う中を旅していたのだから。それでもカタコトで意思を伝えることができたのは不思議だった。アルヘシラス行きのフェリーで、「旅の指さし会話帳」を取りだしてスペイン語の簡単な会話と数字を復習していたおかげもあるのかもしれないが、フランス語などとは違って、スペイン語は発音しやすいし、聞き取りやすいせいもあるのだろう。結局、数分後には小綺麗な部屋を確保し、旅装を解くことができた。
8時過ぎ。お腹が減ったので何か食べようとオスタルを出た。外はまだ十分に明るかった。それもそのはず、海ひとつ隔てた隣国のモロッコはまだ6時なのだから。海峡をひょいと渡っただけで、時計の針はもちろんのこと、人も、言葉も、文化も、街並みも驚くほど違ってしまう。その不思議さを、頭ではなく今こうして体感している。これこそ旅の最大の醍醐味のひとつだ。 |