 |
ここはティトゥアンのメディナに間違いない。
そう確信した。
これほど大きいスークは他の町にないはずだし、なにより、手付かずのメディナ、という形容詞が、今歩いているこのメディナの特徴とぴったり合致していたからだ。
今歩いているメディナは、フェスのメディナに比べてローカル色がきわめて濃く、観光的な要素はほとんど見られなかった。扱っている商品も、いわゆる観光客向けとはっきりわかるものは目につかず、地元の人が買うような日用品ばかりが所狭しと並んでいた。途中、一人の絨毯屋が声をかけてきたが、それを除けば、異邦人である僕に商売目的で声をかけてくる人もいなかった。誰にも煩わされることなくメディナをうろつくことができる。あたかも、自分が透明人間になったかのような感覚。この不思議な浮遊感は、マラケシュでもフェスでも味わったことがないものであった。
|