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ビュルサの丘でタクシーを降りた。この高台は、かつてカルタゴの中心だったところ。ここを起点とすれば、あとは丘を下りながら他の遺跡を見て回ることができる。
頂上に建つカルタゴ博物館をざっと見学するが、とくに目を引くものもなく、すぐに外に出た。容赦なく降り注ぐ日射しを浴びながらも、海を見下ろせそうな場所まで歩いた。カルタゴ時代の住居跡の向こうに、地中海が静かに広がっていた。そして、その向こうにはおそらくシチリア島が横たわっているはずだ。この丘からは見てみたかったのは、まさにこの光景だった。
シチリアに渡ろうというこの日を選んでカルタゴを訪れたのにはちょっとしたわけがあった。カルタゴはすでに紀元前8世紀にはシチリアに領土を持っていて、遅れてシチリアに進出してきたギリシャや、その後に台頭してきたローマとの覇権争いにあけくれた。侵略したりされたりを繰り返した末、最終的に、カルタゴはシチリアの領土をすべて失うばかりか、いま僕が立っているこの故郷までもローマに破壊され、完全に滅び去ることになった。三度にわたるポエニ戦争に敗れたためにローマ軍によって完璧なまでに破壊され、最後には塩までまかれた。そんなカルタゴとシチリア・ローマとの長きにわたる抗争の歴史を、今日、ここからシチリアに渡ることで一本の線としてたどれるような気がしたのだ。まあ、あくまでも気分的な問題なのだけれど。
博物館のとなりにはサン・ルイ教会がそびえていた。
ひさびさにヨーロッパの宗教建築物を見て感動を覚えた。
明日からはいやと言うほど目にすることになるのだろう。
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