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遺跡の中を歩き、壮大な自然を眺めているうちに、あっという間に時間が経ち、約束の4時半が迫ってきた。名残惜しさを抱きつつ、遺跡の入口に急いで戻る。約束どおり、まもなくタクシーがやってきた。

「チュニス行きの最終バスは5時に来るから、あそこで待っていればいいよ」
テブルスークに到着すると、運転手は向かいの建物を指さした。礼を言ってタクシーを降りると、その建物に向かった。チケット売り場らしいが、あいにく窓口は閉まっていた。念のため隣の売店で確認すると、やはりバスは5時に来るとのこと。チケットは車内で買えばいいのか。安心してここで待つことにした。

しかし、5時をかなり過ぎてもバスはやって来ない。よくあることだ。一応ルアージュも探してみたが、チュニス行きは走っていないようだ。仕方がない、とそのまま待ち続けた。6時が過ぎ、7時になった。日が沈み、闇が迫ってくる。さすがに悪い予感がしてきた。そんな予感に引き寄せられたかのように、隣のお店の子供が近づいてきた。その子は僕に英語でこう告げた。
「こんな時間になってしまったら、もうバスは来ないよ」
なんだって。それじゃあ、5時に来るという最終バスは一体どこへいってしまったのだ。見逃してしまったのだろうか。いや、常に道路に注意を払っていたのだからそれはありえない。それともキャンセルになったのか。それはありえそうな話だ。どちらにせよ、これからどうやってチュニスに戻ればいいのだ。けれども、この子に詰め寄ったところでらちはあかない。

途方に暮れていると、ちょうど通りがかった二人連れの男が、どうかしましたか、とたずねてきた。理由を話すと、彼らは周囲の人に本当にバスは来ないのか確認してくれた。しかし、やっぱりバスはもうないという。こうなったら、この集落に泊まるしかない。覚悟を決めて彼らにそう告げると、「テブルスークには泊まるところはないのですよ」という返事。ちょっと待ってくれよ。
「この村にはホテルはありませんが、麓になら一軒がありますよ。よろしかったら車で連れていってあげましょうか」
抜けかかった全身の力がその言葉で少しだけ回復した。安堵の胸をなで下ろした僕は、彼らの好意に甘えることにした。

乗せてもらった車は最新型だった。たずねると、男のひとりは大学でフランス語を教えており、日本のS大学にも友人がいるという。こんな小さな村で、彼のようなインテリと出会うことができたとは。不幸中の幸いとはこのことだ。

10分ほど山道を下ったところに、目的のホテルはあった。何度も礼を言って車を降りた。広い敷地を持つホテルはえらく高そうに見えた。残り少なくなったディナールで泊まれるだろうか。意を決して門をくぐる。フロントで値段をたずねたところ、朝夕食込みで33ディナールとのこと。チュニスのホテルと同料金である。ぎりぎり支払える金額で一安心。

チェックインを済ませて長い廊下を進む。部屋に入ると、ベッドにどすんと倒れ込んだ。寝心地はチュニスのホテルのほうがいい。ああ、最後の夜はあのベッドで寝たかったなあ。それにしても、一晩で二泊分の出費とは、最後の最後で大失態をやらかしたものだ。それよりなにより、果たして明日ちゃんとチュニスに戻れるだろうか。最大の心配はそこにあった。
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