この闘技場が建造されたのは、3世紀前半のこと。当時、エルジェムはシスドラスと呼ばれ、交易ルートの中継地として最盛期を迎えていた。これだけの規模の建物を築けるほど財政的に潤っていたわけだ。
また、この闘技場は、先住者のベルベル人と侵略者アラブ人との争いの歴史が凝縮されている場所でもある。7世紀後半、北アフリカに侵攻したアラブ軍は、マグレブ初のイスラム都市ケロアンを築き、最初のモスク(のちのグランドモスク)を建造する。敗れたベルベル軍はすぐさま反撃を開始し、これによってアラブ軍はいったん退却を余儀なくされる。しかし、それもつかのま、アラブ軍はわずか数年後に再びケロアンをベルベルから奪い返す。追いつめられた時のベルベル王女カヒナは、このエルジェムの闘技場に籠城して抗戦を続けたのだった。けれども、抵抗むなしく、力尽きたカヒナは最後にこの闘技場で自ら命を絶ってしまう。
かつては剣闘士や猛獣、次には女王。主役は違えど、ここが血なまぐさい悲劇の舞台であり続けたことには変わりない。 |