一枚の写真に導かれるように、ある場所を訪ねようとしている。
とある書籍の表紙だった。高台から見下ろすように撮られたのだろう、古い教会と住宅に挟まれた石段が、目の前から下に延びている。その石段の終わりからさらに数百メートル下方にある、狭くて細長い丘いっぱいに、薄汚れた古い家々がぎっしりと並び立っている。時代から取り残されたような寂しげなたたずまい。見たとたん、無性に旅情をかきたてられた。あてどなくここをさまよってみたい。写真のキャプションには「ラグーザ・イブラ」とあった。
アグリジェントからそのラグーザへの道のりは、そう簡単ではなかった。直線距離はさほど長くはないが、バスも電車も乗り換えが必要だし、接続もよくない。いろいろ検討した末、かなり遠回りになるが、いったん東海岸のカターニャに出てからバスを乗り継いでラグーザに行くのが最も効率的だろうという結論に達した。
朝8時半のバスに乗り込み、カターニャへ。2時間ほど平原を走ったのち、バスはカターニャ空港に立ち寄った。三日後には、このカターニャ空港からローマに飛び立たなければならない。旅の終わりが近づいていることをいやが応でも思い知らされ、寂しい気分になる。
カターニャの市街に入ったとたん、渋滞に巻き込まれた。パレルモに次いで大きい町だというが、交通量という点ではその通りだった。ただ、車窓から眺めた限りでは、全体的に黒ずんだ、ぱっとしない、廃墟的なにおいのする町という印象だった。それはそれで面白そうでもあった。見所は少なそうだけど、街角スナップという観点からは、イイ感じに廃れた被写体がそこかしこに転がっていそうな雰囲気がする。カメラ片手に歩いてみたいところだけど、残念ながら、そんな余裕はなさそうだ。
10時40分、カターニャのバスターミナルに到着。思ったとおり、ここのバスターミナルは大規模で、各方面行きのバスが揃っていた。ラグーザ行きの次のバスも、約1時間後に出るとのこと。荷物を預けて町を撮り歩くには時間が短すぎる。おとなしく待合室で休憩して、ラグーザ行きのバスに乗り込んだ。 |


 |
|