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朝霧に包まれた丘上都市エリチェを静かに発ったローカルバスは、9時過ぎにトラーパニに到着した。バスを降りると、すぐ隣の鉄道駅に向かった。大きいバッグをここに預けて、そのままセジェスタ方面行きの列車に乗り込むつもりだった。出発時刻は旅行前にチェックしてあった。セジェスタに停車する列車は30分後に出るはずだ。

駅に着いてみると、頼みの荷物預け所が閉まっている。地方の駅だからもしかしたら、という悪い予感が的中してしまった。さて、どうしようか。

セジェスタに停まる列車は1日に数本しかない。30分後の列車を逃したくはなかったが、荷物と一緒に遺跡には行けない。ここはひとまず今夜の宿を確保して、そこに荷物を置いてから出直すしかない。念のため駅に張り出してある時刻表をチェックしてみると、見逃していたのか、10時台にも1本あることがわかった。これに乗ればよいだろう。

街の中心部に向かって15分ほど歩き、ガイドブックに載っていた安ホテルにチェックイン。料金は、エリチェで泊まった宿のおよそ半額の30ユーロ。設備はここの方がよっぽど近代的なのだが。やはり丘上都市エリチェは評判通り物価も高かったということか。

荷物を置くと、急いで駅に引き返した。切符を買おうと思って電光掲示板を見ると、セジェスタに停まる便が表示されていない。おかしいぞ、時刻表の10時の欄には便が記載されているのに。ひょっとしたら、これは休日便か特別運行便なのかもしれない。Festivoっていう注記がそれなのか。Festivo→Festival→祭日?! イタリア語が読めないのでわからないが、次の列車は午後遅くまでないようだ。セジェスタにはバスでも行けるのだが、こちらも午後2時まで便がない。困った困った。チュニジアでもそうだったけれど、シチリアでも公共の交通手段で遺跡にアクセスするのはいたく面倒なことだということがわかりかけてきた。

確認のため、ガイドブックを開いてみた。セジェスタの最寄り駅としては、セジェスタ駅のほかにカラタフィミという駅があることがわかった。掲示板を見ると、12時半発の列車がそのカラタフィミ駅に停まるらしい。選択肢はほかにないのでこの列車に乗ることにした。

切符を買った僕は、出発までのあいだトラーパニの街を散策することにした。これといった見所もない街だが、チュニジアからやってきたばかりの僕には、メインストリートに立ち並ぶバロック様式の建物は仰々しくも新鮮であり、一見の価値があった。

街の北岸には小さな市場があった。冷やかしながら通り過ぎると、突然視界が開け、思いもかけず美しいエメラルド色の海が広がった。重くて暗い印象の街には似つかわしくない透明さと明るさを誇っている。そのギャップにハッとさせられた。まぎれもなく、いま地中海に囲まれた島にいるのだ。
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