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バスを降りると、巨大神殿が立つ丘を登る。さきほどの丘に比べたら高さはたいしてないのだが、今度は徒歩で登らなくてはならないのでかえって大変だ。しかもこの炎天下だ。ほとんどの観光客が途中でバテて足を止めている。もちろん僕も。

階段を上りきると、バスから眺めたあの巨大神殿が目の前にそびえていた。間近に見上げるといっそう迫力がある。その最大の要因は、立ち並ぶ円柱の重量感にある。ドリス式の円柱は物理的にも太いのだが、縦溝が彫られていないことから簡素さがきわだち、はからずも太さを強調する効果を生み出している。セジェスタが援軍を求めた先のアテネ。そのシンボルである同じくドリス式のパルテノン神殿に比べれば洗練度と完成度は遠く及ばないが、これは国力の差が如実に表れたものだろう。けれども、この未完成の姿がかえって周囲の素朴な景観と奇妙に調和しているような気もする。

とはいえ、丘の連なりに隠れるようにポツリとたたずんでいる姿はいかにも不思議で、これまで見たことがないものだった。本家ギリシャの岩山でもなければ中東の砂丘でもない。マグレブの丘とも違う。シチリアならではの、逞しさと優しさを同時に湛えた丘。その丘を越えると現れたのは、強烈な陽光と風にさらされながらも生きながらえてきた、シチリアらしい力強い巨大神殿だった。


バスの時間が近づいてきたので入口に戻ることにした。明日の目的地は、セジェスタのライバル都市セリヌンテ。ここもアクセスには骨が折れる予感がしてきた。スムーズにたどり着けるといいのだが。いや、その前に、これから乗るトラーパニ行きのバスは本当に来るのだろうか。それが心配だ……。
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