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駅に戻ると、構内のバールでアランチーニを買い、ホームのベンチでほおばりながら列車を待った。しばらくしてやってきたのは、一両編成のローカル列車。いいぞいいぞ。
ほんの何人かの乗客を乗せた列車は、何の前触れもなく、ガタンと動き出した。なんにもない平原をマイペースで進んでいく。30分ほど揺られたのち、カラタフィミ駅に到着した。アナウンスなどないので、ホームの標識を確認してあわてて下車した。
列車が去ると、そこは物音ひとつ聞こえない静寂の世界だった。僕は呆然とその場にたたずんでいた。ここは無人駅なのだ。駅舎はあるけれど、中には入れなかった。水を買うつもりでいたのに、バールもない。帰りの列車についてたずねたかったのに、駅員もいない。もちろん、列車を待つ人などいない。
帰りの便も心配だったが、それより、肝心のセジェスタは一体どこにあるのだろう。360度見回してみた。丘の連なりがあるばかりだった。セジェスタは丘の上に築かれた都市なのだが、いったいどれが目指すべき丘なのだろう。日本の駅によくある観光案内板なんていう気の利いたものもない。さて、どうしたものか。 |
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ガイドブックに載っている小さい地図を頼りに、もう一度それらしい丘を探してみる。ちょうど正面に、肌があらわになった丘が横たわっている。地図の上ではあの丘に間違いなさそうだ。裏側に回り込んだところに入口があるらしい。とはいえ、いくら目を凝らしても、あの頂上には遺跡の痕跡などまったく認められない。不安ではあるが、あの丘しかないだろう。あれに違いない。無理矢理そう断定してあの丘に向かって歩いてみることにした。
しばらくは涼しい木立の影の中を歩けたのだが、丘のふもとにさしかかると、日射しをさえぎる木々はあらかた姿を消した。喉が乾いてきたが、水は数口分しか残っていない。ちょっとしたトレーニングだな、これは。もしこの丘の向こうに何もなかったら……、いや、そんなことは考えずにどんどん歩こう。とにかく歩くんだ、あの丘の向こうまで。
あきれるほどの快晴のもと、刺すような日差しを背に浴びながら、丘のふもとに沿って延びる坂道をひたすら上った。小一時間ほど歩いただろうか。道がなだらかになったかと思うと、突然、裏側の風景が視野に飛び込んできた。
「あれだー」
思わず大声を上げてしまった。
ゆるやかな丘の上に巨大な神殿が立っていた。間違いない。あれがセジェスタだ。 |
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