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バスターミナルは、トラーパニの鉄道駅の隣にあった。構内のバールで腹ごしらえをしたのち、エリチェ行きのバスに乗り込んだ。乗客はほんの数人。

市街を抜けると、荒々しい土地が広がり始めた。どことなくギリシャに似ている。地中海地域に共通するこの乾いた景観は大好きだ。

左手の岩山の頂上に、なにやら砦のような建物が見えてきた。あれがエリチェなのだろうか。あんな岩山の上に町があるとはにわかに信じがたい。

エリチェは、中世の雰囲気をとどめる丘上都市として人気が高まっている。「南イタリアのアッシジ」とも呼ばれているそうだ。人気の高さのわりには宿が少なくて高いことが唯一の欠点なのだが、にもかかわず、日帰りではなくあえて一泊しようと思ったのには、ある理由があった。

何度ヘアピンカーブを曲がっただろうか、つづら折りの山道を登り切ると、バスはエリチェの入口に到着した。城壁に囲まれているので、町の様子は外からはまったくうかがい知ることができない。トラーパニ門をくぐると、石畳の坂道がゆるやかな弧を描きながら奥へと延びていた。エリチェは石畳の美しさでも名を馳せている。目の前の道は、確かに趣があって美しい。美しいのだけれど、このツルツルの坂道をキャリーバッグを転がしながら上るのは難事業になりそうだ。

何度か休みながらも急坂を上りきると、町の中心らしき広場に出た。目当ての宿はこの近くにあるはずだ。地元の人にたずねて、ようやくその宿を見つけた。ドアを開けると、恐そうな女性が応対に出た。一瞬ひるんだが、ほかに予算に見合う選択肢はない。おそるおそるたずねてみると、空き部屋はあるというので、迷わずここに決めた。最大の不安要因だった宿を確保でき、胸をなで下ろした。あとは思う存分町を歩き回るだけだ。
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