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イタリア語のアナウンスで目が覚めた。
目の前の窓から、まばゆい光が射し込んでいた。
そうだ、いま自分はフェリーに乗っているのだった。しかし、当のフェリーは動いている気配がない。やおらシートから起きあがると、窓に近寄った。桟橋が見える。すでにシチリアに到着していたのだ。時計の針は7時を指していた。チュニジアとの間には時差があるので、いまは8時ということか。昨日は出国までスリル満点の展開だったので、さすがに疲れがたまったのか、慣れない夜行フェリーにもかかわらず、到着に気づかないほどぐっすり眠ってしまったのだ。 |
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再び、イタリア語のアナウンスが流れた。「パッサポルト」という単語だけが聞き取れた。入国審査があるらしい。周囲の乗客はみな移動を始めた。僕も荷物をつかんで客室を出た。
乗客がカフェに集まったところで、一人の係員がパスポートを集めに来た。我先にと乗客が係員の周囲に群がる。差し出された中からほんの何冊かを受け取ると、係員はこれまた一人しかいない審査官に渡した。ようやく意味が飲み込めた。まさか、こんな原始的で非効率的な方法で入国審査をやろうとは。何度目かのトライで、僕もやっと係員にパスポートを渡すことができた。秩序も何もあったものじゃない。他の審査官がぞろぞろとやってきて、処理がスムーズに流れ始めたのは数十分もたってからだった。まったくこいつら、バールでカフェでも飲んでいたんだろう。そう邪推したくもなるというもの。そんなこんなで、審査をパスして下船したときには9時半を過ぎていた。これがイタリア式ってやつなのだろうか。先が思いやられる。
船を下りて真っ先に感じたのは、風の爽やかさだった。チュニジアとは狭い海ひとつ隔てただけなのに、シチリアの風の方が明らかに涼しく、爽やかなのだ。目の前に広がるシチリアの街並も、初めて見るのになぜか無性に懐かしい。頭の中で、「ニューシネマ・パラダイス」のあの哀愁を帯びたテーマ曲がエンドレスに鳴り響く。入国審査時の悪い印象も一気に吹き飛んでしまった。 |
初めて土を踏んだトラーパニは、予想していたよりも大きな町だった。シチリアの西のはずれにある、寂れ果て閑散とした港町だと勝手に想像していたのだ。
街の中心部に位置する観光案内所に立ち寄ってみた。男性の職員は親切で、バスのタイムテーブルや各種パンフレットなどたくさんの資料を用意してくれた。今日訪れるエリチェ行きのバスは、1時間に1本ほどの頻度で出ているとのこと。一安心し、さっそくバスターミナルに向かうことにした。 |
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