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7時半のバスでトラーパニに戻りたかったのだが、朝食の誘惑に負けて、出発を1時間遅らせることにした。セジェスタへのアクセスはひどく悪いからできるだけ早く出発したほうがいいとはわかっていたのだが。おとといのドゥッガでの失敗を繰り返しても知らないぞ……。そう思いつつ、心の底では大丈夫さと根拠なく安心しきっている自分がいる。

8時過ぎにチェックアウト。宿の女主人は最初は恐そうに見えたけど、実際はとても親切だった。シチリア人は疑り深くて頑固。そんな風評を耳にしていたことが、偏った第一印象を抱かせたのかもしれない。

朝霧は、夜明けより心持ち濃くなったような気がした。人通りのまばらな石畳の路地に白く立ちこめる霧。これを期待していたのだった。もっと深くたちこめていたなら、どれほど幻想的な光景が目の前に広がっていたことだろう。が、今回はその一端をかいま見ただけでよしとしよう。

トラーパニ門を出ると、すでにバスが停まっていた。行きと同様、乗客はほとんどいなかった。ヘアピンカーブを何度も曲がりながら、下界へと戻っていく。次第に霧が消え去り、日の光が射し込んできた。


山を完全に下りきると、そこは陽光あふれる地中海世界だった。ふと窓に目をやると、さっきまで歩いていたエリチェが潜む丘を見上げることができた。頂の周囲だけが、厚い雲に覆われている。朝霧の正体だった。

雲に隠れることの多いあの山に、古代の人々は神秘を感じ取り、恐れと崇拝の念を抱いたという。だからこそ、あの崖の上が聖域とされたのだ。

聖なる山に潜む神話の町エリチェ。1泊だけでは物足りないような、1泊で下りてきて正解だったような、ちょっと複雑な気分でバスに揺られていた。


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