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再びバスに乗り込み、丘を下る。車窓からは、あの大神殿が見渡せた。ここで降ろしてくれーと叫びたいくらい画になる光景。時間と体力が残っていれば、徒歩で下りながらあの神殿を心ゆくまで眺めたのだが。
セジェスタは、エリミ人という謎の民族が築いた古代都市だ。
当時、シチリアの西部はカルタゴ、東部はギリシャに支配されていた。トラーパニ、エリチェ、そしてセジェスタはカルタゴの支配下にあったはずなのだけど、この神殿を見ると、ギリシャの影響のほうが大きいくらいだ。
事実、セジェスタが常にカルタゴと手を結んでいたかというとそうではない。紀元前5世紀、敵対していたギリシャ植民都市セリヌンテに攻められたときなどは、ギリシャの盟主アテネに援軍を求めたくらいだった。当時アテネはスパルタを相手にギリシャ版関ヶ原ともいうべきペロポンネソス戦争のまっただ中にあり、戦局を好転させようと自慢の海軍をシチリアに送り込んだ。しかしその海軍が壊滅的な打撃を受け、それが尾を引いてペロポンネソス戦争にも敗れ去ったのだった。アテネ没落の誘因はこのセジェスタにあったのだ。当のセジェスタはというと、あっさりアテネを見限ってカルタゴについた。のちにカルタゴが形勢不利になると、こんどは新興勢力のローマについた。シチリアの都市国家はどこもそうなのだけど、特にセジェスタは合従連衡に長けていたようだ。 |