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いよいよ、マンジャの塔に登ってみることにする。登り口にはいつも長蛇の列ができると聞いていたのだが、訪れるのが早かったのか、登り口はガラガラ。列どころか、階段を上っていく人さえいない。ひょっとして今日は閉まっているのだろうか。不安げに階段を上っていくと、チケット売り場は開いており、一安心。バッグ類はすべてここに置いていかなければならないらしい。カメラ数台以外はすべてロッカーに預けると、先に進む。いよいよ心臓破りの階段だ。

塔の内壁に沿って設けられた狭い階段は、ぐるぐるぐるぐる、てっぺんへと続いている。数段上ったら角を折れ、また数段上ったら角を折れ。その繰り返しがどこまでも続く。無限ループだ。方向感覚などあっという間になくなる。閉所恐怖症の人には悪夢のような階段かもしれない。三半規管の弱い人もちょっと危なそうだ。




いったいいくつコーナーを曲がったのだろう。もういい加減にしてくれーっと叫び出したくなったころ、ようやくてっぺんにたどり着いた。

しかし、眼下に広がる赤い街並みを目にしたとたん、苦労が一気に報われた気がした。

これは、すごい。

あの巨大な扇のようなカンポ広場が、ここからなら一望のもとに見渡せる。そのカンポ広場に、マンジャの塔が細長い影を落としている。まるで時計の針のようだ。

いま自分は、あのカンポ広場に投影されている塔のほぼてっぺんから、こうしてファインダーをのぞき、写真を撮っている。そう考えると、急に恐くなってくる。




赤茶色に統一された家並みも見事だが、周囲の自然の美しさにはため息がもれてしまう。緑豊かな、たおやかなトスカーナの平原がどこまでも広がっている。

シエナを初めて訪れたのは、11年前の夏のこと。イスラエルからスコットランドまで、3か月近くにわたる旅の途上であった。ケチケチ旅行に徹していたのだが、さすがにフィレンツェでは美術館巡りなどでお金を使いすぎてしまった。そんなこともあって、日帰りで訪れたこのシエナでは、わずかな料金を惜しんでこの塔に登るのをあきらめたのだった。カンポ広場から見上げただけで、物足りなさを残したままこの町を後にしたことを、なんとなくではあるが覚えていた。11年後のいま、またシエナを訪れようと思ったのも、ひとつはそうしたいきさつがあったからであった。今度こそ、この塔に登りたい。

そしていま、こうしてこの塔の上に立ち、カンポ広場と赤茶けた街並みを見下ろしている。晴れ晴れした気分になったのは、眼下に広がる美しい光景のおかげだけじゃなく、長い間放っておいた宿題をひとつ片付けたからでもあった。

だが、「宿題」はひとつだけじゃない。まだいくつか残っている。そのひとつを片付けに、これからある場所に向かうことにする。
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