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チュニスの南バスステーションで、タタウィン行きの長距離バスを待っていた。発車予定時刻の9時半はとっくに過ぎている。目の前にバスが止まるたびに、近くの人にタタウィン行きかどうかを確認するのだが、みんな一様に「違う」と答える。そんな彼らは、やってくるバスに次々と乗り込んでいく。まるで僕だけが取り残されていく気分だ。やっぱり乗り損ねたのでは……。朝の便を逃したら、おそらく次は夜行便になってしまう。不安がこみ上げ、冷や汗が流れ始めた。そんなとき、1台のバスがやってきた。
「このバスだよ」
ふいに、見知らぬ男に声をかけられた。男はそのバスに向かって走っていく。あわてて後を追う。僕がタタウィンに行きたがっていることをなぜか察知して声をかけてくれたに違いない。イスラムの国を旅していると、こういうさりげない親切を受けることがよくある。ありがたいとしか言いようがない。

結局、バスは1時間近くも遅れて出発した。終点のタタウィンまでおよそ9時間、到着は午後7時過ぎだろう。長い移動になるので、一番楽ができそうな最後部のシートを確保した。隣の赤ちゃんはなぜか不思議そうに僕の顔をしげしげと見つめていた。

午後1時、バスは昼食のため道沿いの食堂で停車した。食堂に入ってみたものの、もともとお腹が弱いし、まだこの先何時間もバスに揺られなければならないことを考えると、昼食を取る気にはなれなかった。売店でケーキを1個買ってつまむだけにした。

暇をもてあました僕は、散歩でもしてみようかと、目の前の道路に出た。照り返しの厳しいアスファルトの道の先を見やった。その道を通せんぼでもしているかのように、不思議な建物が立っていた。遺跡のようにも見えるが、もしかしたら・・・。デジカメのズームレンズで確認してみる。間違いない。エルジェムの古代闘技場だ。世界遺産に登録されているこの遺跡にはタタウィン訪問後に立ち寄るつもりでいたが、まさか今日こんな形でお目にかかれるとは。

しげしげ眺めているうちに、バスの発車時間となった。数分も走ると、そのエルジェムの町に入った。さきほど眺めた闘技場のすぐ脇をすり抜けると、そのまま南へ。順調にいけば数日後には戻ってきてあの内部を見学できるはずだ。

日が傾くにつれ、窓の外には荒涼とした風景が広がり始めた。7時を過ぎる頃には外は真っ暗になった。灯はどこにも見えない。バスは山道をひたすら走っていく。こんな暗闇の中、見知らぬ町にたった一人で到着しようとしている。その心細さといったらなかった。地理もわからない町で宿探しから始めなければならないのだ。これまでの経験から、どうにかなるとはわかっているものの、この闇を眺めていると不安は消えることがなかった。

午後8時。ようやく終点のタタウィンに到着。降ろされたバスステーションは寂しい郊外にあった。やってきたタクシーをつかまえてお目当てのホテルに向かった。空き部屋はあるというので、即座にチェックイン。部屋に入り、荷物を床に置いたとたん、自然と安堵のため息がもれた。お腹がものすごく減っていることに気がつき、夜の町へ。適当な店に入り、適当な料理を注文した。最初に出されたショルバが胃にしみわたった。
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