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   7.  聖者の町  ―  ムーレイイドリース
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息を切らせながら狭い路地をさらに上る。案内のおじさん、僕よりずっと年輩に見えるのに、まったく疲れた様子を見せない。歩き慣れているのだろう。こちらはもう汗びっしょりだ。

ふいに、視界が開けた。崖に張り付くように建っている一軒の家の前に出た。右手の方を見下ろすと、ムーレイイドリースの白い家々が、対面するもうひとつの丘にまたがるように広がっていた。丘の向こうには、平原がどこまでも続いている。イタリアやスペインの村を訪れたような錯覚にとらわれる。

中心に見える緑の屋根の建物が、さきほど訪れたムーレイイドリース廟のようだ。ちょうど二つの丘のくぼみに建てられていることがわかった。

イドリース1世はボリュビリスで王朝を開くと、新都の建設に取りかかった。その新都に選ばれたのが、ほかならぬフェスだ。残念ながら、イドリース1世は彼の勢力拡大を恐れたアッバース朝の手によって暗殺されてしまうのだが、その彼に代わって新都フェスを完成させたのが、息子のイドリース2世だ。そのイドリース2世の廟は、ここではなくフェスの中心部に建てられている。