最後に、有名な「風の道」を歩くことにした。
夕立を降らせた雨雲を吹き飛ばした強風が、このまっすぐな道を吹き抜けていく。なるほど、本当に「風の道」だ。
そろそろフェスに帰らなければ。バスターミナルはどこだろう。メクネスには方面別にターミナルがいくつもあり、一体どれを目指せばよいのか分からない。ボリュビリス観光のことばかりが頭にあったため、メクネスからの帰路便のチェックを怠っていたのだ。
地図を見ても情報は載っていない。とりあえず、メインバスステーションを目指すことにした。
王都の門を出ると、それらしい方向へと歩き出した。ほどなく、バスとグランタクシーが集まっているターミナルを発見。しかし構内をいくら探しても、フェス行きのバスやタクシーは見つからない。近くの人にたずねると、「向こうだよ」と遠くを指さす。すでに足は棒のようになっている。引きずるように歩く。ようやく、町の出口とおぼしき大きな門にたどり着いた。くぐり抜けると、見覚えのあるターミナルが遠くに見えた。午前中、ボリュビリス行きのグランタクシーに乗り換えるときに利用したターミナルだ。
近づいていくと、1台のバスが今まさに発車しようとしている。もしや、と思い、小走りで向かった。足の疲れも忘れていた。僕の姿に気がついた係員のおじさんが、乗車口で手を振っている。
「フェス?」
「そうだ、フェス行きだ」
走ってきた僕の問いかけにそう答えたおじさんは、なぜか握手を求めてきた。契約成立っていう意味なのか、異国の旅人さんローカルバスへようこそっていう親愛の印なのか。彼と固い握手をかわし、バスに乗り込んだ。疲れも心地よく思えてきた。
ローカルバスは、途中で何度もお客を乗せたり降ろしたりしながら、フェスへと走っていく。
車窓の向こうに広がる平原は、通り雨の潤いを帯びていた。彼方のたおやかな丘の向こうに、夕陽が静かに沈もうとしていた。
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