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「なんなんだ、この暑さは」
午後2時40分。マラケシュの駅に降り立った瞬間、思わずそんな言葉が飛び出してしまった。いまだかつて体感したことのない熱気が、文字通り肌をチクチクと刺激してくる。まるでドライヤーの熱風を全身に浴びているかのようだ。海岸都市のカサブランカは暑さのなかにも爽やかさが漂っていたのに対し、列車で3時間ほど南下したこの内陸都市は、「熱暑」に支配されている。砂漠に一歩近づいたことの証なのだろう。
フナ広場の手前でタクシーを降りる。さっそく男が声をかけてきた。「オテルXXX?」と言いながら近くのホテルを指さすが、無視を決め込んで安宿地区へと進む。別の男が声をかけてくる。「オテルXX?」。ノン、IMOUZZERだ。反射的に目指すホテルの名を口に出してしまった。「そのホテルならよく知ってる。案内するよ」と男。あー、なんで答えてしまったのだ。つきまとわれたら面倒なことになるではないか。でも今さら仕方がない。男についていくことにした。
安宿地区は想像以上に入り組んでいたが、彼の案内で迷わずにホテルにたどり着いた。空き部屋はあり、無事チェックイン。チップを要求してくるかと思いきや、なんにも言ってこないので、そのまま部屋へ。いいヤツだったのか? でも油断は禁物。僕が外に出てきたらつきまとう魂胆かもしれない。ここはしばらく部屋で休むことにしよう。
赤茶色の素っ気ない外観とは対照的に、内部はとても美しく、手入れも行き届いている。パティオと回廊には鮮やかなタイルが敷き詰められ、花が飾られている。モロッコの住宅の特徴をかいま見た気がした。 |