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   アンダルシア 2.  アルハンブラへ  ―  グラナダ
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8時半という、やや遅めの時刻にセットしてあったアラームで目が覚めた。たっぷり熟睡したおかげで、疲れはかなり取れたようだ。

暑かったので半開きのままにしておいたドアを全開にして、ベランダに出た。空気こそまだひんやり感が残っていたが、朝の太陽はすでに強烈な光を放っていた。

ゴメレス坂を下ると、近くのパン屋で朝食としてチョコパンとファンタを買い求めた。ベンチでさっさと食べ終えると、すぐにアルハンブラに向かうことにした。

乗り込んだアルハンブラバスはずいぶんと可愛らしい。狭くて急なゴメレス坂を上り、泊まっているオスタルを通り過ぎる。なおも坂を上ると、グラナダ門をくぐり抜け、さらに何百メートルか走って、ようやくアルハンブラの入口に到着した。最初はオスタルから入口まで歩こうと思っていたのだが、バスで正解だった。これからたっぷりと歩くことになるのだから。

アルハンブラを訪れるにあたって最も心配だったのが、チケットの購入だった。とにかく窓口が混んでいて、常に長蛇の列だという。「早起きして販売開始前から並ぶか」。グラナダに来るまではそう覚悟を決めていた。けれども、実際に昨日グラナダを歩き回ったところでは、観光客でごった返しているという印象は受けなかった。

「きっとアルハンブラもそれほど混んでいないに違いない」

そう勝手に予想して、今朝は思い切って朝寝坊してしまったのだが・・・果たして、売場に近づいてみると、窓口は拍子抜けするほどガラガラだった。これはラッキー。すぐにチケットを購入し、待つことなくアルハンブラに入場できた。

右手に庭園を見ながら細い小道をしばらく歩き、サンタマリア教会を通り過ぎると、四角形の妙にごっつい建物とぶつかった。カルロス5世宮殿だ。カルロス5世といえば、かのハプスブルク家出の神聖ローマ皇帝カール5世のこと。そのカール5世の命によって建造されたルネサンス様式の建物だ。

昨日サンニコラス広場からアルハンブラを眺めたときに一番目立っていたのが、この威容だった。そのときは、あれがアルハンブラ宮殿の中心部か、などと勝手に想像を膨らませていたのだが、考えてみれば、ルネサンス様式のこの建物がイスラム王朝の宮殿であるはずもなかったのだ。

宮殿内に入ってみると、角張ったいかつい外見とはうらはらに、壮麗な円形の回廊が広がっていた。その均整美は見事だが、「なんでアルハンブラにこんなローマ風の建物があるの?」っていう違和感がどうしてもこみ上げてくる。これを建てるにあたって、それまでここにあったイスラムの建物が取り壊されたと聞くと、なおさらこの大仰さが鼻についてしまう。
王宮に足を踏み入れた。

謁見の間であった「大使の館」の見学を終えると、外には「天人花の中庭」が広がっていた。その名のとおり、細長い池の両脇に沿って天人花が植えられていた。

この中庭を囲んでいる建物は王の公務室として使われていたという。その一部は修復のためシートで覆われていた。ある柱の横には足場が組まれ、その上では、一人の男性によって化粧漆喰の修復作業が丁寧に進められていた。しばらく見学していたが、非常に根気がいる作業だ。

次はいよいよライオン宮だ。
ライオン宮とその中庭は、王宮見学のハイライト。

回廊を取り囲む百数十本もの円柱が、哀愁を帯びた旋律を奏で、光と影のドラマを演出している。

「ここだけは、ときが暴虐の手を最小限にとどめてくれた。モーロ様式の優雅な美的世界が、ほぼ往時のままの輝きで、いまに伝わっている」

前述の『アルハンブラ物語』の中でアーヴィングがそう語っているように、王と美女たちにだけ開かれていたこの禁断の空間には、崩壊の手が入り込む隙間もなかったのだろうか。

もちろん、なにもかもが完全に往時のままだというわけではなかった。たとえば、この土がむき出しになっているパティオ。周囲を取り囲むスタッコ(化粧漆喰)仕上げのアーチと列柱が精巧であるだけに、粗雑さが一段と目立つのだ。

おそらく、当時は一面にタイルが敷きつめられ、草花が彩りを添えていたのだろう。ハレムの美女が優雅に歩き回っていたりもしていたのだろう。美女はともかく(いればうれしいが)、床の部分はありし日のままの状態に復元して欲しいものだ。

パティオの中央に配された水盤は、12頭のライオンによって支えられている。その姿はきわめてあいまいで、およそライオンらしくない。キリスト教徒の捕虜の手によるものだからだとアーヴィングは推測しているが、偶像を厳しく禁じているイスラムの教えに従ってわざと素朴に造られているのだという説もあり、こっちの方が真実のような気がする。
ライオン宮を見たあとも、見所はたくさん残っている。二姉妹の間、二連窓の間、リンダラハの中庭などをひととおり見学。最後の方は少々駆け足気味。

一日がかりで見学する腹づもりだったが、どうやら本当にそうなりそうだ。ひとつひとつを丹念に見ていたら1日どころか2日でも足りないくらいだ。

これでは、ゆっくりお昼なんか食べている暇もない。
王宮の見学は終えたが、まだアルカサバとヘネラリーフェ離宮という大きな見所が残っているのだ。

カルロス五世宮殿に戻り、脇にある売店に入ると、スペインではめずらしく自動販売機が並んでいた。久しぶりに近代的な装置に出会って感動してしまう。さっそくサンドイッチと缶ジュース二本を買い、朝と同様、近くのベンチで食べた。

それにしても、アンダルシアの陽射しは強烈だ。帽子を忘れたのをちょっぴり後悔しながら、次の目的地アルカサバへ向かった。


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