4階の一角を占めるホテルの頑丈な扉を閉めると、石造りの階段をコツコツ下りた。マクエダ通りに出たとたん、パレルモ独特の、どこかイスラム的な喧噪に包まれる。左右に立ち並ぶ建物の隙間からは、どんよりと濁った空がのぞいていた。今日も曇り。がっかりしながらも、パレルモ駅に向かって足取りを速めた。これから向かうチェファルーはいい天気であって欲しい。
自動発券機でチケットを購入し、10時40分発のインターシティーに乗り込んだ。予約したシートは、6人掛けコンパートメントの窓側。あいにくの天気だが、心おきなく景観を楽しめそうだ。ほどなく発車した列車は、海岸線に沿って東へと速度を上げる。車窓からは陸地側が見渡せた。2、3百メートルの低い山々が線路に迫るように連なっている。山腹からは雲がわき出し、その合間から頂が見え隠れしている。
1時間ほど走り、チェファルーに到着する頃には、そんな憂鬱な天気もだいぶ回復し、青空も顔をのぞかせはじめた。コンパートメントを早めに出て、廊下側の窓から外を眺めた。美しさで名高いチェファルーの街並みが、木々の間から姿を現しはじめた。右手には断崖が迫り、左手には紺碧の海が広がっている。そのはざまに、白壁の家々が群れをなしている。群れの中心には、二本の鐘楼を誇る大聖堂。おびえて寄り添う子羊を守るかのように堂々とそびえ立っている。自然美と造形美が見事に融合したその遠景は、あたかも一枚の絵のように車窓に描き出されていた。強烈な第一印象だった。
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