|
チェファルー駅に降り立ったときには、すでに感慨と感動と期待で心がいっぱいだった。車窓に映し出されたチェファルーの景観があまりにも鮮烈だったからということもあるが、なにより、このチェファルー駅が、大好きな映画のひとつである『ニューシネマ・パラダイス』のロケ地だと聞いていたからだ。
『ニューシネマ・パラダイス』は、ジャンカルドという架空の村を舞台に繰り広げられる人間ドラマ。そのロケ地として選ばれたのは、パラッツォ・アドリアーノというパレルモ近郊の村であるが、この村へのアクセスはひどく不便なことから、訪問はあきらめざるをえなかった。が、パラッツォ・アドリアーノのほかに、リゾートとしても知られるチェファルーでもいくつかのシーンが撮影されたと知ったとき、この街だけはぜひ訪れてみようと思ったのだ。
そのチェファルーに、いま実際に降り立った。映画好きの主人公トトが、傷心の末に故郷ジャンカルドを離れるシーンを思い出した。父のように慕っていた映画技師アルフレードの「絶対に戻ってくるな」という厳しいたむけの言葉を胸に、トトは遠いローマへと旅立つ。田舎の小さな駅で繰り広げられる別れと旅立ち。その印象的なシーンが、このチェファルー駅で撮影されたと聞いては、しばしたたずんでみたくもなるというものだ。
列車と乗客が去るのをしばし待ってから、ホームを歩いてみることにした。脳裏に刻み込まれているあのシーンの面影を求めながら。が、どこを歩いてみても、そのシーンをとどめるものはいっこうに見つからない。念のためホームの端から端まで歩いてみたが、結局、面影のかけらも拾い出すことができなかった。撮影後に改装されてしまったのだろうか、セットが巧妙すぎたのだろうか、あるいは、ロケ地はこの駅ではないのかも……。疑問はつきなかったが、このままずっと駅にいても仕方がない。がっくり肩を落としながら駅を出た。ロケ地巡りのシナリオは冒頭から狂ってしまった。
|