いつものように、腕時計のアラームで目が覚める。6時10分。身体がまだ寝ていたいと訴えるが、無視するようにベッドから起きあがる。疲れが蓄積しているのだろう。旅に出てから3週間近くたつのだから。ここいらで「何もしない日」を設けるのが賢明なのだろうが、どうしてもそれができない。欲張りなのである。ここラグーザでも、旧市街を半日歩き、一夜を過ごしただけなのに、もう次の町に向かおうとしている。
7時過ぎにホテルをチェックアウト。15分ほどでラグーザ駅へ。目立たない、小さな駅だ。切符売場が閉まっている。一体どこで切符を買えばいいのか。プラットフォームに立っていた駅員にたずね、裏のオフィスでやっとチケットを購入。対面に停車している列車に乗り込む。が、ここで何度目かの失敗。乗車前に切符に刻印を押すのを忘れてしまったのだ。発車後、検札に来た車掌にイタリア語でブツブツ文句を言われてしまう。だってしょうがないじゃーん。こんなシステム、日本にはないんだからさ。と少々逆ギレ気味。
二両編成の列車は、ほとんどがらがら。シチリアの列車の旅はつくづくのんびり、味わい深い。2時間ほどゴトゴト心地よく揺られたのち、列車はひっそりと静かに終点のシラクーザに到着した。プラットフォームに立つ。澄んだ青空。まばゆい太陽。ほのかな潮の香り。ゆったりとした時の流れが漂う。ここがあの有名な古都なのかと驚いてしまう。
お腹が空いていたので、ホームの横のバールでコルネットとカプチーノの朝食をとってから、シラクーザの町へ足を踏み入れる。
地中海に面するシラクーザは、大きく本土側と島側にわかれている。本土側には新市街が広がり、さらにその郊外に古代劇場や競技場などの巨大遺跡が散らばっている。いっぽう、紀元前から連綿と続く旧市街は、オルティージャと呼ばれる小さな島の上に密集している。いま向かっているのは、もちろんオルティージャ島。情緒あふれるこの島に泊まらなければ、この地を訪れた意味がない。
大通りをしばらく歩くと、橋が見えてきた。目の前の巨大な錨が、ここが古代からの由緒ある港であることを物語っていた。橋を渡り、オルティージャ島へ。
中級クラスのホテルをあたってみる。が、さすが歴史ある島だけあって、路地が入り組んでおり、すぐに道に迷ってしまう。ようやく探し当てた何軒かのホテルにも、空き部屋なしと言われてしまう。バッグを引きずりながら、路地を行き来したり、同じブロックをぐるぐる回ったり。ようやくあるホテルで空き部屋を発見。静かな中庭に面した部屋は居心地がとてもよさそうだ。これで1泊50ユーロは観光地にしては十分安いだろう。宿が決まり、すでにひと仕事終えた気分。 |


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