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午後の日射しを浴びながら、30分あまり歩いただろうか、ようやく考古学公園に到着。

この公園の最大の見所は、ギリシャ劇場である。岩山を切り出して建造したものだという。開放感があって、いかにもギリシャ的だ、というのが第一印象。客席のはるか後方まで登ると、さわやかな風が吹き渡っていて、ますますギリシャ気分。そこいらの岩盤に腰を下ろす。昔はここも観客席の一部だったのかもしれない。だとすれば、相当な規模の劇場だ。

眺望が素晴らしい。街の向こうに広がる地中海までもが見渡せる。劇場といえば、数日前、セジェスタの劇場から眺めた感動的なパノラマが忘れられないが、ここからの眺めも、なかなかに壮観である。






ギリシャ劇場が作られた岩場のはずれは、奇っ怪な形の崖になっている。いったんギリシャ劇場を退場して、この崖の真下に向かう。ちょっとした探検に出かけた気分。









崖には、ディオニュシオスの耳と呼ばれている洞窟がある。石切場の跡なのだが、僭主ディオニュシオスが政治犯をここに閉じこめて、内緒話を聞き取ったという言い伝えがある。

ディオニュシオスは、紀元前5世紀、セリヌンテやアグリジェントを攻め滅ぼし、破竹の勢いで迫ってきたカルタゴ軍を食い止めた僭主である。『走れメロス』に出てくる暴君のモデルでもある。さすがのカルタゴも、この強国シラクーザだけは攻め落とせず、撤退を余儀なくされる。そんな強大なシラクーザも、後世に起きた第二次ポエニ戦争では、ハンニバルの活躍で判断を誤り、旧敵カルタゴの側についてしまう。その結果は、知ってのとおり。天然の要害という利点を生かし、アルキメデスが発明した強力な新兵器でしぶとく応戦したものの、ついにはローマの手に落ちてしまう。

チュニジアからシチリアに渡り、セリヌンテ、アグリジェントと、はからずもカルタゴ侵攻の跡を追う旅ともなったが、その道程も、ここが終点。この真っ暗な洞窟が、旅の終わりを暗示しているようでもあり、寂しさがこみ上げてくる。

考古学博物館に立ち寄り、そのあと、サンジョヴァンニ教会を訪れた。寂れているけど美しく威厳ある外観は、シチリアの多難な歴史と、それを耐え抜いてきた民族の屈強さの象徴でもあるようだ。

地下にはカタコンベがあるのだけど、入場料が4ユーロもするという。特別な興味もないので、ここはパス。それに、もう夕方だ。地中海に沈む夕陽を見なければ。急げ、オルティージャ島へ。
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