街一番の賑わいを見せるアテネア通りを適当に折れ、狭い小道を上っていく。いかにも下町風の古びた家々に挟まれた路地は複雑に折れ曲がり、別の小道と合流したり、分岐したりする。そのたびにどちらを進むか迷ってしまうが、とにかく上へ上へと足を進める。
丘を登り切ると、高台の一角に、大聖堂がひっそりと立っていた。 |
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この大聖堂があった場所には、かつて大神殿が築かれていたという。この頂上は、古代ギリシャ時代はアクロポリスだったところであり、都市国家アグリジェント(当時の名はアクラガス)で最も神聖な場所だった。けれども、いまではそのアクロポリスと大神殿の面影はまったくといってよいほど残っていない。数日前に訪れた、同じギリシャ植民都市であるセリヌンテを思い出した。面影のなさという点では、セリヌンテもアグリジェントもまったく同じだ。ただし、セリヌンテのアクロポリスには遺跡のかけらが一面に散在していて、少なくとも廃墟的な雰囲気は味わえた。一方、このアクロポリスは、遺跡の破片さえ存在しないほど変わり果てしまっている。その代わり、ここでは中世の教会やイスラム的な路地を見て回ることができる。
セリヌンテとアグリジェントには、ほかにも多くの共通点がある。たとえば、セリヌンテにアクロポリスとは別の神殿の丘があるように、アグリジェントにも同じような場所が存在する。ただし、アグリジェントでは、その場所は「丘」ではなく「神殿の谷」と呼ばれている。アグリジェントの最大の見所は、いま立っているアクロポリスではなく、その神殿の谷である。
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