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旧市街の散策はこの辺にしておいて、メインの神殿の谷を訪れることにした。駅前の広場から乗り込んだバスは、かつてアクロポリスであった丘を一気に下りる。そこはもう神殿の谷だ。遺跡群を訪れる前に、その手前でバスを降り、州立考古学博物館を見学することにした。けれでも、あまり目を引く展示物がなく、ちょっとがっかり。が、ここからの眺めはちょっとした壮観だった。緑の合間に、コンコルディア神殿とジュノー神殿を見渡すことができる。
パレルモからセジェスタを経てアグリジェント(当時の名はジルジェンティ)を訪れたゲーテは、先ほど歩き回った旧市街の丘と、この神殿の谷を次のように表現しているが、目の前の景観はまさにこの記述のとおりだ。
「今朝の日の出に見たような美しい春の眺めは、生まれて以来未だ曾てであったことがない。高い古代の城跡のところに、新しいジルジェンティが、その住民を入れるに十分なだけの広さをもって横たわっている。宿の窓からは、曾て栄えた町の遠く広いなだらかな傾斜がみえ、それが農園とぶどう山ですっかり蔽われて、その縁の下に、そのむかし人口稠密だった市区の痕跡があろうとは思えないほどである。ただこの緑濃く、花咲き匂う平原の南端にあたってコンコルディアの寺院が聳え、その東にはジュノー神殿の若干の廃址が見えるのみである」
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ゲーテ著、相良守峯訳 |
『イタリア紀行(中)』岩波文庫 |
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