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再びバスに乗る。緑が広がる平原をしばらく走ると、突然、観光客であふれるにぎやかな一画にさしかかった。ここかと思い、バスを降りる。思ったとおり、ここが神殿の谷の入口だった。谷といっても、それはアグリジェントの街が広がる丘から見下ろせばそのように見えるだけであって、実際にここに立ってみれば、いたって普通の平原である。

神殿群は、車道を挟んで、東西にほぼ一直線に並んでいる。チケットを購入すると、まずは車道の西側を攻めることに。数分歩くと、ゼウス神殿の前に出た。紀元前480年、ヒメラの戦いでカルタゴ軍を破った記念に建立が開始されたものだ。ちょうどアグリジェントが絶頂期を迎えた時代だ。完成していれば大ギリシャ(マグナ・グレキア)圏で最大の神殿になるはずだったのだが、そのおよそ70年後、復讐を誓い、セリヌンテを徹底的に破壊して勢いに乗るカルタゴ軍によって、この神殿も破壊されてしまった。

ゼウス神殿の跡はまったくの廃墟で、テラモンと呼ばれる、かつて神殿の一部であった人像柱が一体横たわっているだけ。周囲には巨大な円柱のかけらが無造作に散らばっている。はるか遠く、かつてアクロポリスだった丘に、現代の街並みが広がっているのが見渡せる。奇妙で不思議な眺望だった。いま立っているところは古代、あちらは現代。完全に隔絶している。こことあそこの間にあるのは、物理的な距離だけではない。2500年という時間的な距離もある。あの街並みさえ見えなければ、ここで思う存分タイムスリップ気分を味わえるだろう。けれでも、遠くにあの街並みが見えるからこそ、古代と現代のコントラストがかえってより明確にこの目に映り、それが、これまでに訪れた遺跡では見たことがない劇的な眺望を生み出している。

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