午前8時10分発の路線バスは、トラーパニを抜けると東へ進路をとった。次第に空が雲でおおわれていく。どうやら今日は好天は期待できそうにない。
満席のバスに揺られて1時間半、車窓にパレルモの町が広がり始めた。その規模と風格には目を瞠るものがあった。シチリアの州都なのだからそれ相応の都市であることは想像がついていたが、いかんせん、シチリアの町といったらエリチェとトラーパニしか知らない身である。目を丸くするのも無理はなかった。
パレルモ駅の前でバスを降りた。地図を眺め、目星をつけておいたホテルの位置を確認すると、ロータリーを渡り、町を南北に貫くマクエダ通りを進む。
当初はその規模に驚きを隠せないでいたものの、こうして歩きながら見上げる外観には、古色蒼然さとあか抜けなさが目に付く。もっとも、フィレンツェやミラノのようなたたずまいを期待していたわけではないし、この古ぼけた町並みがシチリアらしいとも思えた。
ホテルの看板を見つけると、通りを左に折れた。路地はゆるやかにくねりながらだんだん狭く、暗くなっていく。両側には老朽化した建物が壁のように続き、その間隙を縫うように狭い路地が左右に延びている。
パレルモの基本的な都市構造を完成させたのは、9世紀から11世紀にわたってこの地を支配したイスラム王朝。その時代の面影を残す迷宮が、こうして目の前に展開されている。パレルモは表通りより路地裏の方が圧倒的に面白そうだ。
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