オルティージャ島の迷路のような路地裏にひっそりとたたずむホテルをチェックアウト。本土側へと歩き出す。シラクーザのバスターミナルは、オルティージャ島と本土を結ぶ橋の脇にあった。オフィスでチケットを購入し、バスに乗り込む。午前9時。シラクーザを出発。途中、カターニャのターミナルでバスを乗り換え、さらに北を目指す。目的地は、タオルミーナ。10日にわたるシチリアの旅の終着点である。
昨日は雲ひとつない快晴だったのに、今日は太陽が昇るにつれて雲の面積がじわじわ増えてくる。せっかく有名なエトナ山のそばを通ったというのに、残念ながらその全体像を仰ぎ見ることはかなわなかった。
ちょうど正午を回った頃、タオルミーナのふもとに到着。迫り来る岩山に追いつめられたように細く延びる海岸。そのビーチ沿いの狭い道を、バスはノロノロ通過する。店がポツリポツリと並んでいるのだが、活気がなく、どこかひなびた様相。ここがあの有名な、陽光降り注ぐリゾートタウンなのか。映画『ディープブルー』の舞台となった町なのだろうか。なんというか、日本でいうなら、あこがれの沖縄に到着したと思ったらそこは熱海だったというような印象で、思い描いていたイメージとの落差が小さからずあった。いま目に映っている範囲だけでそう判断してしまうのは早計なのだろうけれど。そんな不安な第一印象を残した海岸を離れると、今度は一転して急な山道に突入。ヘアピンカーブが続く細い道をこれまたノロノロ上っていく。数分後、高台に広がるタオルミーナの町はずれのバスターミナルに到着した。
ゆるい坂道を中心部へと上っていくと、町の入口であるメッシーナ門が見えてきた。その門の手前でホテルの看板を見かけたので、当たってみることにした。たずねてみたところ、1泊40ユーロだという。イタリアでも指折りの保養地なのだから、安宿でも最低50か60ユーロはするものと覚悟していただけに、これはうれしい誤算。いちもにもなくここに決める。
荷物を置くと、さっそく観光開始。しかし、その前にまずはランチだ。
地中海を見下ろし、タウロ山を間近に仰ぐ高台に築かれたタオルミーナ。町を貫くのはウンベルト通り。この通りをタウロ山側に折れればどの道も上り坂、海側に折れれば下り坂と、構造はわかりやすそうだ。大通り沿いのレストランは高そうなので敬遠し、海側に折れてみることにした。坂道を下っていくと、いつのまにやら路地が錯綜する空間に迷い込んでしまった。わかりやすそうでいて、なかなか探索しがいのある町のようだ。どの路地にも、雰囲気のいいレストランがテーブルを並べている。そのなかの一軒に入り、生ハムメロン、海老、カッサータの昼食を取った。
食事をすませると、なにはともあれ、タオルミーナ随一の名所と言ってよいギリシャ劇場を目指すことにした。町からはちょっと離れた高台にある。
ギリシャ劇場へと通じる一本道の両側には、土産物屋がずらりと連なっている。食指を動かされるようなものはなかったが、この暑さの中では、冷たいジェラートの誘惑だけには勝てなかった。
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