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チケットを買い求め、ワクワクしながら場内へ。なにはともあれ、すり鉢状に広がる客席の最上段まで上ってみることにした。

「その昔見物人の坐っていた一ばん上の席に腰をおろしてみると、劇場の見物人として、これほどの景色を眼前に眺めたものは外にあるものではない」

少々大げさにも聞こえるけれど、カターニャからこのタオルミーナにたどり着いたゲーテもそう認めている景色を、まずは眺めてみたかった。

本来、ギリシャ劇場は舞台が円形であり、背後に高い仕切りなどは存在しないのだけど、ローマ時代に大幅に増改築された結果、舞台は半円形に縮小され、背後に円柱が並ぶ高い壁が設けられるなど、かなりローマ風の構造に変わってしまっている。

ついに最上段に立った。目の前に開けている眺望は、たしかに壮観ではある。でも、なにか物足りない。大気が霞んでいるせいだ。全体的にぼんやりしていて、見通しが良好とは決して言えない。落胆を隠せなかった。本来なら、舞台の背後には、長大なすそ野を誇るエトナ山がその優雅な姿を見せているはず。そのエトナ山と地中海と劇場が一体となった光景が、あたかも一枚の画のように美しいとされているのに……。訪れたタイミングが悪かったのだとあきらめるしかない。

北西には、タオルミーナの町を見下ろすようにタウロ山がそびえている。古代ギリシャ時代にはこの頂がアクロポリスだったのだが、のちに城塞が築かれ、その跡がいまも残されている。歩いて登れるというが、この暑さのなか、そんな元気は正直湧いてこなかった。

そのタウロ山の裏側に、さらに一段高い山があり、その頂にも建物が見える。カステルモーラの村だろうか。タウロ山はともかく、あの村はぜひとも訪れたいと楽しみにしていた。こぢんまりとした村のたたずまいは趣がありそうだし、あの頂上から眺める夕陽はさぞかしきれいだろうと想像できるからだ。ここからバスが出ているはずだから、脚を酷使せずとも容易にたどり着けるはずだ。タオルミーナの町を一通り見たあとで訪ねてみることにした。
 
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