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   5.  迷宮都市  ―  フェス
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門をくぐり抜け、メディナに足を踏み入れた。人と目を合わせないように、前だけを見つめてスタスタと早足で歩く。

カフェが連なるクランク状の曲がり道を通り過ぎた。不思議なことに、「案内してやる」と言ってくるヤツは一人も現れなかった。安堵すると同時に、いささか拍子抜けし、いぶかしさを覚えた。どうもおかしい。ニセガイドにつきまとわれ、彼らとの格闘で身も心もくたくたになってしまうのが、ここを訪れる個人旅行者の定めだと聞いていたのだが。

狭い道は、ゆるやかに下りながらメディナの奥へと延びていた。気を少しだけ緩めて、歩く速度も落としてみた。お土産屋がときおり声をかけてくるが、まったくしつこくない。「え、それでおしまい?」って突っ込みたくなるくらい。どうやら、旅行前の心配は杞憂に終わったようだ。これなら一人で気ままにメディナをうろつき回れそうだ。

道はさらに狭くなり、ついにT字路にぶつかった。右折してみる。人の波はますます大きくなり、僕をメディナの奥へと流していく。屋根で覆われた道は次第に暗さを増し、周囲のざわめきも勢いを増していく。この薄暗さが高揚感をもたらし、人とざわめきの波が浮遊感をもたらす。そして、両側に並ぶさまざまなお店が、好奇心を刺激する。こうやって歩いているだけでも、魅力的な光景が次から次へと現れては消えていく。先ほどまでの眠気と疲れと不安も忘れ、目の前に展開される光景のとりこになっていった。