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8時半発のローカルバスに乗り込み、ワルザザートからカスバ街道を東へ。数時間後、ティネリールという小さな町に到着した。
時刻は正午前。今からならバスを乗り継いで、砂漠の玄関口であるエルフードまで行くことも可能だった。その方が効率的だ。が、このエルフードという町、とにかく悪評が高かった。強引な砂漠ツアーの客引きがウヨウヨしているという。そんな町に好きこのんで宿を取る気にはなれない。今夜はここで1泊し、明日、エルフードは素通りして砂漠の村メルズーガに直行した方がよさそうだ。
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ティネリールの近くにはトドラ峡谷という見所もあるのだが、今日はあえてのんびりと過ごすことにした。旅の疲れがたまってきたという自覚もあったし、なによりも、灼熱の砂漠には万全の体調で向かいたかったからだ。
しかし、そんな気遣いは遅すぎたようだ。夜遅くになって、ついに来るべきもの ―下痢― が来てしまったのである。そのあまりの激しさに、強い吐き気も伴って、おちおち眠ることさえできない。ぐったりした状態で朝を迎えることとなった。
あまりもタイミングが悪すぎた。これから憧れの砂漠に向かおうという大一番なのに。昨夜、ネットカフェから自分のホームページの掲示板に「お腹は何ともない」なんて書き込みしたばかりだったので、バツも悪かった。もう1日ここで休養した方がいいのでは……、いや、それでは時間がもったいない。まあ何とかなるだろう。最後にはそう自分に言い聞かせ、急にげっそりしてしまった体を引きずるように宿をあとにした。午前9時。やってきたバスに乗り込んだ。
オンボロの民営バスは、いっこうにエルフードに着く気配を見せてくれない。車窓の向こうには、荒野が果てしなく広がっている。どこまで走っても代わり映えしそうにない。見ているだけで汗がふき出てきそうだ。実際、車内はひどく暑かった。のどが渇いてきた。が、水は飲めない。少しでも胃腸に刺激を与えようものなら、結果は明白だ。もう少しの我慢だ。いつ停車するともしれないバスの中で、そんな言葉を繰り返していた。
3時間半後、ようやく終点のエルフードに到着。バスを降りようとすると、さっそく、悪名高い客引きが次々と声をかけてきた。その彼らに向かって、僕は必死の形相で声を発した。「トイレはどこ?」
一人の男に案内され、一軒のカフェへ。トイレをすませると、やっと人心地がついた。
案内してくれた男は砂漠ツアーの話をしつこく持ちかけてくるが、なんとか振り切って、テレブティックに向かった。
一枚のメモを取り出すと、そこに書かれてある番号をダイアルする。今日泊まる予定の宿につながるはずだ。
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昨晩、ホテルの近くのカフェで夕食を取ったときに、その主人にメルズーガのオーベルジュを紹介してもらい、電話で予約までしてもらった。エルフードに到着したときに電話すれば、オーナーが隣町のリッサニで僕を出迎えてくれる手はずになっていた。今日、下痢にもかかわらず出発を敢行したのも、この予約があったからだ。
電話に出たオーナーに「これからリッサニに行く」と告げた僕は、すぐにグランタクシー乗り場へと向かった。リッサニまではそれほど遠くないはずだ。
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